
弁護士コラム「身元保証人」
2023.09
1 入院や施設入所に際して提出する書類に「身元保証人」という欄が設けられていることをよく目にします。
しかし、その意味合いは、「本人の身元(身分や経歴など)が確かであることを保証する」、「本人に何かあった際の緊急連絡先となる」、「入院(入所)中に生じる一切の債務について保証する」、「本人が亡くなった際に遺体や遺品を引き取る」など、そのときどきで微妙に変わるように思います。
なお、「身元引受人」という単語が使われることもありますが、「身元保証人」と意識的に使い分けられていることは少なく、どちらも同じ意味で使われていることが多いようです。
2 このように、身元保証人として負うべき責任はそのときどきで異なる可能性が高いため、身元保証人としてサインをしようとしている申込書や契約書の内容をきちんと確認することが重要です。
また、「保証人」である以上、単に「この人の身元は確かだ!」と太鼓判を 押すだけで済むことは稀で、入院・入所中に本人に生じた支払義務を肩代わ りするという金銭面での負担が生じると思っておいたほうが良いと思います。
3 これに対しては、「サインしなくて済むならだれも困らない!」という声が聞こえてきそうです。なぜなら、多くの施設では「身元保証人がいなければ入所できない」と規定されているからです。
病院においては、「身元保証人がいなければ入院できない」とすることは違法(医師法 19 条 1 項違反)となる旨の通達が厚労省から 2018 年になされています。
これに対して、施設入所においてはこのような通達はなされていません。施設入所者は入院患者ほど直接的に生命や身体の危機に直面していない、施設にも契約する・しないの自由があると考えれば、入所を制限できるという解釈が可能です。実際にも多くの施設で身元保証人の存在が入所の要件とされているようです。
4 それでは、身元保証人が見つからない場合にはどのように対処すべきでしょうか。
身元保証人になってくれそうな人をどうにかして探す、身元保証人を必要としない施設を探す、といった方法もありますが、とても大変だと思います。このような実情にかんがみてのことだと思いますが、最近では、身元保証 人が見つからない方に向けた身元保証代行業(家族や親族などの関係性によるものではなく、業者が費用をもらって身元保証人になる形態)が増えてきているようです。中には悪質な業者も紛れ込んでいるようではありますが、慎重に見極めた上で、業者を上手に利用するというのも一つの手だと思います。
5 他方、「いっそのこと自分が保証人になってしまえ!」という思いに駆られたとしても、法的な観点からは決してお勧めできません。前述のように、身元保証人として負うべき責任は必ずしも明確ではなく、十分に確認したつもりでも思わぬ見落としや勘違いなどがないとも限りません。また、入所の時点では身元保証人としての責任を的確に把握できていたとしても、施設費が思いのほか高額となってしまった、頻繁な通院が必要になりご本人の財産が急に底をついてしまった、などといった想定外の事態も十分にあり得ると思います。しかし、そのような場合であっても身元保証人としてサインしてしまった以上は責任を免れなくなってしまいます。
身元保証人も「保証人」であることには十分な注意が必要だと思います。

