弁護士コラム「 “ 同意 ”のおはなし」

2023.8

 医療や福祉の現場では、なにかと「同意」を求められます。「同意」と聞いてすぐに思いつくのが、いわゆる「医療同意」ではないでしょうか。同意書には、「いかなる場合も責任を追及しません」といった趣旨の一文が記載されていることも多く、そのために署名をためらってしまうことも少なくありません。
 しかし、実際のところ、医療機関としてはそこまでの同意を意図しているわけではなく、あくまでも身体への侵襲に対する同意を取り付けたいということが多いようです。
 身体への侵襲というのは、メスで切りつけたり注射針を刺したりする行為です。行為の外形だけ見れば刃物や針でケガをさせる行為と同じですから、刑法上は傷害罪、民法上は不法行為となり、刑罰や損害賠償の対象になってしまいます。しかし、実際には手術や注射は犯罪や不法行為ではなく適法な行為とされています(明らかな医療過誤などは除きます)。その根拠がまさに「同意に基づくから」という点なのです(なお、医療行為という正当な業務なので違法ではないという根拠付けも可能ですが、ひとまず置いておきます)。

 医療同意がこのような「身体への侵襲に対する同意」であるとすると、同意をなし得るのは侵襲されるご本人だけであるはずです。実際の場面では「本人又は家族の同意」が必要とされることが多いように思いますが、いくら家族であっても、身体への侵襲を許すかどうかまでは決定できないと考えるのが適切であるように思います。
 従って、成年後見人等にも同意権はないと考えるのが適切と言えるでしょう。予防接種に関しては、予防接種法の存在を根拠として成年後見人にも同意権があるとする見解もあります。しかし、予防接種法には、「本人が16歳未満又は成年被後見人であるときはその保護者は本人に接種を受けさせるよう努めるべき」と規定されているにすぎず、ここから成年後見人の同意権まで導き出すことは難しいと思います。

 それでは、福祉の場面における身体拘束の同意についてはどうでしょう。医療同意と同様に考えることができるでしょうか。
 身体拘束という行為の外見だけ見れば、刑法上の逮捕・監禁罪、民法上の不法行為となります。それを同意によって適法化するというのであれば、同意できるのはあくまでもご本人だけであり家族や成年後見人には同意権はないと考えるべきことになります。ここまでは医療同意と同様です。

 しかし、身体を拘束されることについては、それがいかにご本人を保護するためであったとしても、「どうかお願いします」という心境にはなりづらいように思います。理由がどうであれ身体拘束はされたくないというのが偽らざる心境で、ここが医療行為を受ける場合とは異なるように思います。

 そのため、本人の同意があるかどうかではなく、どのような行為が身体拘束にあたるのかを適切に把握することや、切迫性・非代替性・一時性という「3要件」を満たしているかどうかを厳格にチェックすることがとても重要になると言えるでしょう。

 その他、医療保護入院に際しての同意や、個人情報保護法に規定されている本人情報の取得や利用に際しての同意など、他にもさまざまな同意がありますが、この点はまたの機会にお話しできればと思います。

  …以上が今回のコラムでしたが、ある方に読んで頂いて感想をお伺いしたところ、「麻酔を打たれて歯を削られて…それなのに歯科医で同意書にサインを求められることがないのはなぜ?」というご意見を頂き、「たしかに、なぜだろう…」と思ってしまいました。特に、嫌がる本人を家族が引っ張って行って治療してもらうような場面では本人の同意はなさそうにも見えます。
しかし、結局は治療台に座って口を開く、治療中に説明を受けてうなずくといった行為により、その都度同意が得られていると考えることができるのだと思います。


▼執筆者紹介
明日の風法律事務所 久保田 聡 弁護士

武蔵野市成年後見制度地域連携ネットワーク連絡協議会委員、同市地域自立支援協議会委員、同市高齢者及び障害者虐待防止連絡会議委員、同市障害者差別解消支援地域協議会委員、NPO法人こだまネットもと副理事長など、地域の権利擁護のために奔走中。

https://asunokaze-law.com

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