弁護士コラム「 カスハラ研修ダイジェスト①」

2024.9

 今年(2024年)の2月に2回にわたって、管理者の皆さま向けにカスタマーハラスメント(「カスハラ」)についての研修をさせて頂きました。東京都がカスハラ防止条例を制定したこともあってか最近何かと話題のテーマですので、研修のダイジェストという形でその内容を皆さまにもお届けしようと思います。

1 全体の構成
2回にわたった研修ですが、大まかな流れとして、第1回はカスハラとは何か、カスハラの背景にあるものは何か、といった部分に焦点をあて、グループワークを通して考察を深めました。第2回は、当事者(本人・家族、事業所、職員)間の法律関係に焦点をあて、「家族のカスハラを理由に本人との契約を解除できるか」についての裁判例(認めたケース、認めなかったケース)を検討しつつ、カスハラの予防策を検討しました。今回は、第1回の前半部分のダイジェストとなります。

2 事例その1
まずは「アイスブレイク」として以下の事例について、何番がカスハラに当たるか、グループで検討して頂きました。皆さまのご意見はいかがでしょうか。

松下さんは、最寄駅から自宅までタクシーで帰宅することにしましたが、運転手が明らかに遠回りな道を通っていることに気づきました。

①「このルートでは明らかに遠回りであり、本来は●●通りを通るべきだった」と指摘しつつ、メーターの料金を支払った。

②「●●通りを通ればいつも決まって1,200円なので、それ以上は支払いません」と冷静に伝えた。

③「最短ルートを選択しなかったのは旅客運送契約違反であり、当方は1円も支払う必要はない」との理論をぶつけた。

④「道間違っとるやろ!土下座して詫びろ!」と怒鳴りつけた。

 事例のうち、④がカスハラに当たること、①がカスハラに当たらない(「正当なクレーム・言動」)ことについては特に問題はないと思います。
 ③については、一見もっともらしいのですが、目的地まで運んでもらっているので1円も支払う必要がないとは言えず、そうすると不当な要求としてカスハラに当たると考えられます。最も微妙なのは②です。③と違って料金を支払う意思はあるのですが、それだけでカスハラに当たらないとは言えず、「いつも1,200円」は本当か、交通事情(規制、渋滞など)の影響はなかったかなどの裏付けがないとカスハラに当たる可能性があると言えます。

3 カスハラとは
 次に、上記の事例を踏まえつつ、カスハラの定義について触れました。
 厚労省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」によると、カスハラとは、①要求の内容が不当、または②要求を実現するための手段・態様が不当であって、③労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることということになります。
 講義の後、ご受講頂いた方から「結局どこからがカスハラに当たるのかスッキリしません」というご質問をいただきました。なかなか難しいところではあるのですが、「カスハラ」というもの自体が最初から存在しているのではなく、「対応に困って職員の心身に不調を来したり、業務に支障を生じさせるもの」(「困ったなぁ…これじゃ仕事どころじゃないよ」という状況)をカスハラと名付けたと捉えて頂くといくらか分かりやすい(「カスハラの要件を満たすかどうか」という発想だと分かりにくい)かもしれません。

4 介護・看護の場面におけるカスハラ
 上記のようなカスハラの一般論についてお話しした後、介護や看護の場面におけるカスハラに特有の問題について考察してみました。
 介護・看護の場面におけるカスハラの特徴としては、まず、①「正当なクレーム・言動」か否かの見極めが難しい(虐待の有無の調査・判断が必要)ということが挙げられると思います。本人のご家族から支援についてのクレームがあったような場合、
 実は職員による虐待が潜んでいた…という可能性もあり得るため、直ちにカスハラと決めつけるのは危険といえます。中には事実関係の調査等が必要となることもあるなど、そもそもカスハラに当たるかどうかの見極めが難しいという特徴があります。
 また、②病気の症状や障害の特性としてあらわれる言動(BPSD等)があるという難しさもあると言えます。厚労省のガイドラインにも「BPSD等はハラスメントではない」との記載がありますが、BPSDかカスハラかの見極めは実に難しいと思います。
 ただし、「認知症患者や障害者の言動はハラスメントにならない」というわけではないので、必要以上に抱え込んでしまわないよう注意が必要です。
 さらには、③カスタマー=利用者・患者とは限らない(=家族との関係・家族への対応が必要)という特徴もあると言えます。
 ご家族との関係については、基本的には「利用者=家族」というスタンスで良いと思います。ただし、「誰のためか」という意識は必要です。ご家族から「本人のためだから」という要望があったとしても、それが実は家族のためということもありますし、ご家族の利益を図ることで本人の安全や財産、プライバシー等が犠牲になるおそれもあるので注意が必要です。

▼執筆者紹介
明日の風法律事務所 久保田 聡 弁護士

武蔵野市成年後見制度地域連携ネットワーク連絡協議会委員、同市地域自立支援協議会委員、同市高齢者及び障害者虐待防止連絡会議委員、同市障害者差別解消支援地域協議会委員、NPO法人こだまネットもと副理事長など、地域の権利擁護のために奔走中。

https://asunokaze-law.com

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