
弁護士コラム「カスハラ研修ダイジェスト②~」
2024.10
前回に引き続き、今年の2月に2回にわたって管理者の皆さまに向けて講義をさせて頂いたカスタマーハラスメント(「カスハラ」)についての研修のダイジェストです。今回は第1回講演の後半部分となります。
1 介護・看護カスハラの背景にあるもの
次に、介護・看護の場面におけるカスハラの背景にある事情について考えてみました。私見ですが、①職員に対する「些細なこと」の積み重ね・エスカレート(当初は冗談半分だった職員の呼び方(「若僧!」など)が上下関係の意識にエスカレートしてしまうような状況)、②男尊女卑、学歴主義など利用者側の(古い)価値観(「〇〇のくせに」)、③「本人のため」という利用者家族の思いが強すぎて「暴走」ずるといった事情などがあるのではないかと考えます。
また、④ミスや不適切な対応など職員・施設側に「負い目」があるということも考えられます。しかし、「取り戻そう」、「埋め合せをしよう」などの発想は逆効果で、「それはそれ」、「場面が違う」ときちんと割り切ることが重要です。そして、そのために、躊躇なく報告できる体制・雰囲気も重要といえます。
さらに、⑤サービス以上のサービス、特別扱いを契機とした関係のゆがみという事情も挙げられると思います。「当初は良かれと思ってついサービスしたことが、いつしか当たり前に…」さらには、「当たり前になるどころか更なるサービスを求められてしまて…」という状況です。最初のきっかけは本当にちょっとした親切心や、契約の内容に含まれていないと割り切ることへの気まずさなどから、それ自体は取るに足らないようなサービスをしただけだったのに、「少しずつ」だったので抵抗感を持ちにくく、気づいたら過剰なサービスが当たり前になってしまっていたというのは、実は意外と多いのではないかと思います。
そして、このような過剰なサービスの背景には、⑥支援者の皆さまの受容や寄り添いの精神もあるのではないかと思います。支援者の皆さまにとっては「当たり前」になっていたとしても、本来は必要のないことまで受け入れたり我慢している可能性もあります。
2 グループワーク
当日は、以下の事例をもとに、グループワークとその発表をして頂きました。皆さまもぜひ一緒にお考えいただければと思います。
<事例>
ある日、利用者であるAさんの家族から電話がありました。あなたが電話を受けるなり、「オタクの事業所はどんな教育をしているのだ!オタクのX職員がAのことを無視したり、個室に閉じ込めたり、それでは虐待ではないか!こっちはネットに書き込むことだってできるんだぞ!そうしたらオタクはおしまいだ。どう責任を取るのか、3日以内に書面で回答しろ!」とまくしたて、一方的に電話を切りました。
X職員に確認したところ、無視をしたのではなく、Aさんは気を引こうとしてわがままを言うことがよくあるので、ご本人のためにあえて取り合わなかった、個室に閉じ込めたのではなく、ロビーでAさんが苦手にしている音楽がかかっていたので一時的に別室に移動してもらった、施錠はしていないとのことでした。
<問い>
Aさんの家族に対して、①いつまでに、②どのような回答(内容、方法)をするのが良いでしょうか。
また、その回答に対して家族が「だったらネットに書き込みしてやる!」と激高し、その後まもなく実際にそれらしき書き込みが見つかった場合、③どのような対処をするのが良いでしょうか。
3 カスハラへの対処法(考察)
当日ご受講頂いた皆さまからは実に多様な、とても勉強になるご意見をたくさんお伺いすることができました。何が正解ということはないのですが、ご参考までに以下、私見を述べておきます。
まず、①いつまでにという点ですが、「3日以内」という要求は守らなくて良いと思います。「自分の言いなり」という誤解を相手に与えるおそれもあり、そもそも、きちんと状況を把握し適切な対処法を検討するには、3日では短かすぎるからです。
ただし、「無視された」などの新たなクレームを生まないよう、「いつ頃までに回答する」という目安は3日以内に示しておく必要があるでしょう。
次に、②どのようなという点です。内容としては、指摘通りの部分はきちんと認めてお詫びし、指摘とは異なる部分は、客観的な状況(事実関係)を説明するというのが良いと思います。ここで注意すべきは、「あくまでも事実関係を述べる」という点です。「正当」、「適切」、「問題ない」などは評価であり、評価は人それぞれなので極力避けるのがポイントです(評価をめぐって新たな揉め事が生じてしまいます)。
また、方法としては、書面によるのが良いと思います。「言った、言わない」、「売り言葉に買い言葉」の新たな火種を防ぐためです。ただし、良くも悪くも形に残るので、内容は十分に吟味する必要があります。場面によっては、あえて口頭で回答して形に残させないという手段もあり得るでしょう。
最後に、③SNS等に書き込まれたかも…というときですが、基本的には取り合わないのが得策です。「一体どこまで拡がるのかという得体の知れない恐怖感」はありますが、仮に騒ぎになっても一過性のものであることが多く、下手に「応戦」するとかえって「炎上」するおそれもあります。
目に余る場合は、弁護士にご相談の上で、被害届の提出や損害賠償請求といった法的手段を検討することになるでしょう。
<次回に続きます>

▼執筆者紹介
明日の風法律事務所 久保田 聡 弁護士
武蔵野市成年後見制度地域連携ネットワーク連絡協議会委員、同市地域自立支援協議会委員、同市高齢者及び障害者虐待防止連絡会議委員、同市障害者差別解消支援地域協議会委員、NPO法人こだまネットもと副理事長など、地域の権利擁護のために奔走中。
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