
弁護士コラム「カスハラ研修ダイジェスト③~」
2024.11
前回に引き続き、今年の2月に2回にわたって管理者の皆さまにお話させて頂いたカスタマーハラスメント(「カスハラ」)についての研修のダイジェストです。今回は第2回講演の前半部分となります。
1 カスハラへの対処法としての法的責任
前回、グループワークを通じてカスハラへの対処法を検討してみましたが、明確な対処法というのはなかなか見つからないように思います。
受講後にも「カスハラに対する明確な対処法を知りたい」というご意見を頂きましたが、事情もそれぞれであるため、「こうすれば良い」という「正解」は残念ながらありません。
もっとも、明確な対策もなく、もはやなす術がないのだということでは困ってしまうと思います。そこで、今回は、カスハラに対して法的責任を問うことはできないか、カスハラをめぐる法律関係について考えてみたいと思います。
なお、以下では「正当なクレーム・言動」ではなく「カスハラ」であることを前提とします。
2 利用者・家族と職員との関係
利用者であっても、その家族であっても、職員に対してハラスメントを行えば民事上の損害賠償責任や、場合によっては刑事上の責任(暴行罪、強要罪など)を負う可能性もあります。
なお、利用者や家族から「謝罪しろ!」「賠償しろ!」と言われたとしても、そもそも賠償義務が生じるような場面ではないことも多く(謝罪はそもそも法的義務にはなりません)、慌てる必要はありません。
3 利用者・家族と事業所との関係(利用契約の解除はできるか)
ハラスメントを行った利用者・家族は、職員だけでなく事業所に対しても損害賠償責任や刑事上の責任(業務妨害罪、名誉棄損罪など)を負う可能性があります。
もっとも、一番の関心事は、「ハラスメントを理由とした利用契約の解除はできるか」という点だと思いますので、詳しく見ていきたいと思います。
ア 問題点
解除の可否を検討するにあたって問題となるのは、①福祉や医療のサービスなので『正当な理由』なく提供を拒むことはできないのではないか、②家族によるハラスメントの場合、契約当事者はあくまで本人なので、家族のハラスメントを理由に本人との契約を解除することはできないのではないかといった点です。
まずは、解除を認めた裁判例、解除を認めなかった裁判例をそれぞれ見ていきたいと思います。
イ 解除を認めた裁判例(東京地裁R3.7.8判決)
<事実の概要>
・有料老人ホームAの利用者家族であるXが、ホーム長やその他の職員に対して人格否定や侮蔑的な呼び方をしたり、暴言や脅迫をしていた
・Xのこのような言動に対し、Aのホーム長は、Xの言動を記録し、具体的に指摘した上で、言動の改善を求める旨の書面を9回以上に渡って送付した
・しかし、Xの言動は改善されなかったため、Aは、Xの母とAとの利用契約を解除した
<裁判所の判断>
・ホーム長の記録は、Aの職員に対するXの言動等を詳細に記録しており、その記載内容や体裁から、少なくともその大半は記載された出来事の都度記録されたものである
・AからXに対して送付した9回の書面についても、仮にXによる暴言、脅迫が実際になかったとすると、あえてAの職員らがXによる言動を創作して、Xに対して言動の改善を繰り返し求める理由も必要性がないため、信用性が認められる
ウ 解除を認めなかった裁判例(大阪地裁堺支部H26.5.8判決)
<事実の概要>
・利用者Aが利用者Bに対し暴行を行い、Bが受傷したことから、今後は職員がBに手厚く支援できる土日に限定した利用とすることを決定。
・両親はBが被害者であるにもかかわらずその後の施設利用を制限されること、その決定に至るまで何も相談がなかったことに納得がいかず、話し合いの場で、父親が強く机を叩き施設長に対し「おい、お前な」と強い口調で抗議した。
・施設側は父親の言動は施設への脅しであり、利用者の重大な背信行為に該当するとして、Bとの利用契約を解除。
<裁判所の判断>
・利用者父に不穏当な言動があったのはたしかであるが、利用者父が施設職員に対してこのような言動に及んだのは、Bが施設を利用してからの12年間で、この1回だけ。
・利用者父がこのような言動に至ったのは、本来、事故の被害者であるBが、施設の一方的な判断により利用を制限され、長時間の話し合いを経ても施設が何ら譲歩の余地も見せずに、結論ありきとして話し合いを打ち切ろうとしたからである
・このような従前の経緯や当日の施設の対応に照らすならば、利用者父が不穏当な言動に及んだとしても、真にやむを得ないとみるべき側面があり、これを重大な背信行為であると評価するにはなお十分でないというべき
エ 考察
裁判所の判断も踏まえて考えると、カスハラを理由として利用契約の解除が認められるためには、①契約書にカスハラが解除事由として明示されていること、②信頼関係を破壊したと認めるに足りる特段の事情(ある程度の期間反復・継続してなされたものであること、③ある程度の期間反復・継続してなされたものであることについての裏付け(証拠)があることが必要になると考えられます。
① については、もう少し補足しておきますと… <大変申し訳ございませんが、紙面の都合上、つづきは次回に…>

▼執筆者紹介
明日の風法律事務所 久保田 聡 弁護士
武蔵野市成年後見制度地域連携ネットワーク連絡協議会委員、同市地域自立支援協議会委員、同市高齢者及び障害者虐待防止連絡会議委員、同市障害者差別解消支援地域協議会委員、NPO法人こだまネットもと副理事長など、地域の権利擁護のために奔走中。
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