弁護士コラム「法廷ドラマのウソ・ホント」

2025.12

 「法廷ドラマ」と聞いて、どの作品を思い浮かべるでしょうか。「HERO」や「リーガル・ハイ」、「99.9」、あるいは「2時間ドラマ」など、それぞれお好みの作品があることと思います。
 では、法廷ドラマと聞いて、どのような場面を思い浮かべるでしょうか。作品は違っても、思い浮かぶのはわりと似通った「あるある」な場面かもしれません。 そこで今回は、法廷ドラマにありがちなシーンがどこまでリアルなのか(実際の法廷でも見られる光景なのか)お話してみようと思います。

 「静粛に!」
 法廷ドラマにありがちなシーンとしておそらく最も多くの方が思い浮かべるのは、裁判官が「静粛に」と言いながら木槌をトントンと叩く姿ではないかと思います。
 しかし、以前のコラム(コラム⑬)でも触れましたとおり、裁判官が木槌をトントンと叩きながら「静粛に」と言う姿は、民事裁判、刑事裁判を問わず、日本の法廷でお目にかかることはできません(外国の法廷の光景を模しているのだと思われますが、実は諸外国でも一般的な光景とは言えないようです)。
 日本の法廷は、裁判官が制さずとも、基本的にとても静かです。稀に、被告人などが暴れたりすることもあるようですが、そのような事態になればもはや木槌どころではなく、実際にも裁判長が退廷を命じることで対処しているようです。

 「異議あり!」
 主に刑事裁判において、検察官、弁護人ともに白熱して「異議あり!」の応酬が繰り広げられる…これもありがちなシーンです。実際はと申しますと、あり得るにはあり得るのですが、これもなかなかお目にかかることはありません。
 実際の刑事裁判のほとんどは罪を認めて争わない「自白事件」ということもあり、驚くほど淡々と進んでいきます。事実関係については争いがなく、それゆえに異議を出す場面も少ないというのが現実です(ただし、争いがなかったとしても尋問の内容が不適切、例えば誘導が含まれていたり、侮蔑的だったりすれば異議を出すことはあります)。
 他方、民事裁判においては、裁判になった後であっても裁判官が主導して和解を成立させるという解決法が相当数あるため、裁判所で尋問を行うケースは少なく、感覚としては全体の2割程度ではないかと思います。
 もっとも、裏を返せば、尋問を行うことになるのは双方の主張に隔たりがある(それゆえに和解で解決できなかった)ケースが多いため、いざ尋問となれば、尋問自体は刑事の自白事件よりも活気はあるように思います。特に、相手方に有利な証人に対しては代理人弁護士もエキサイトしがちで、ここは少しドラマを彷彿とさせるかもしれません。

 検察官や弁護人が法廷内を歩き回る
 もっとも、エキサイトと言っても声が大きくなったり、相手の話を遮って発言しようとしたりする程度で(十分かもしれませんが…)、ドラマのように法廷内を歩き回ったり、証人に顔を近づけて尋問をしたり、途中で立ち止まって傍聴席に向かってアピール(演説)をしたりするようなことはありません。
 実際の法廷では刑事裁判の検察官・弁護人も、民事裁判の双方の代理人弁護士も、基本的に自席で尋問をしたり、主張をしたりします。尋問の当事者に証拠(書類)を示すために証言台まで歩み寄ることはありますが、終わればすぐに自席に戻ります。実際の法廷でドラマのような立ち振る舞いをしてしまうと裁判官に制止されたり退廷を命じられたりするのでしょうが、基本的には淡々とした空気感なので、あのような立ち振る舞いをするにはまずもって相当な勇気が必要だと思います。

 衝撃の事実が明らかとなって法廷がざわめく
 絶対に協力しないと頑なだったキーパーソンが主人公の熱意にほだされて証人として姿を現す、何度も現場に通ううちにそれまで見落としていた決定的な証拠をつかむ…など、ドラマ的にはクライマックス、一番の見せ場といえるでしょう。ときには視聴者にとっても初めて明かされるような事実もあり、そのワクワク感こそが法廷ドラマの醍醐味といえるかもしれません。
 実際は、お察しの通り、やはりそんなに上手くいかない…というのが現実です。決定的な証拠どころか、あるべきはずの証拠までない(「そんなに大事ではないと思って捨てちゃいました」、「そもそもそんな書面作っていません」など)ということも多くあります。

 リアルさにこだわった作品も…
 このように、法廷ドラマのよくある場面は、実際にはあまりお目にかからないもののほうが多いと言えます。実際の法廷はかなり淡々としているため、あまりにリアルだとドラマとして見せ場もなく面白みがなくなってしまうのだろうと思います。そもそも、ドラマと現実との違いに触れること自体がナンセンスなのかもしれません。
 もっとも、そんな中でも「それでもボクはやってない」という痴漢の冤罪をテーマにした映画(2007年公開)や、「winny」というファイル共有ソフトの違法性をテーマにした映画(2023年公開)などは、法廷だけでなく関係者なども含めて描写がかなりリアルだと言われています。ご興味があればぜひ。

▼執筆者紹介
明日の風法律事務所 久保田 聡 弁護士

武蔵野市成年後見制度地域連携ネットワーク連絡協議会委員、同市地域自立支援協議会委員、同市高齢者及び障害者虐待防止連絡会議委員、同市障害者差別解消支援地域協議会委員、NPO法人こだまネットもと副理事長など、地域の権利擁護のために奔走中。

https://asunokaze-law.com

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