弁護士コラム「手続のデジタル化②(遺言・公正証書編)」

2026.6

 法的手続のデジタル化ということで、前回は裁判所の手続についてご紹介しました。今回はその続きということで、遺言書や公正証書のデジタル化についてお話ししてみようと思います。

 まず、遺言書についてですが、遺言書には、自筆証書遺言という方式と公正証書遺言という方式があります(他にも秘密証書遺言という方式があるのですが、秘密証書遺言はあまり利用されていないので割愛します)。
 このうち、自筆証書遺言については、基本的に自筆する必要があります。しかも、パソコンの文書作成ソフトではダメで「手書き」でなければなりません。文字通り、自ら筆をしたためることになります。
 もっとも、数年前に法改正があり、現在では遺言書に財産目録(土地、建物、預貯金など相続させる財産を列挙したもの)を添付する場合、その財産目録はパソコンを使用して作成しても良いことになっています(遺言書本体に財産を列挙する場合は手書きが必要となります)。

 自筆証書遺言が基本的に「手書き」でなければならないとされているのは、「手書き」によって遺言者本人が作成したことを明らかにし、他人による偽造や改ざんを防ぐという意味合いがあるとされています。
 しかし、基本的に「手書き」というのはとても億劫です。実際に、手書きゆえに作成をためらってしまい、遺言書が存在しないことが「空き家問題」などの新たな問題につながるという状況が見られているようです。
 このような背景もあり、現在、遺言書をデジタル化し遺言書全部をパソコンで作成できるようにするための法改正が進められています。
 ただし、偽造や改ざんのリスクをどう防ぐかなど、解決すべき課題もあるため具体的な導入時期は未定とされています。

 これに対して、遺言を含む公正証書は2025年10月からデジタル化が導入されています。従って、「デジタル公正証書遺言」はすぐにでも作成することができます。
 作成の手順を少し見てみますと、今までの公正証書遺言は、公証人(裁判官や検察官のOBが多いそうです)が嘱託者(遺言を作成したい人)の意向を聴き取って遺言書案を作成し、印刷して読み合わせをした後、印刷した紙媒体に嘱託者(遺言を作成したい人)や証人が順次署名をするという手順で作成されていました。
 これに対して、デジタル公正証書は、紙媒体ではなく文書データ(PDFファイル)で作成され、紙媒体への署名ではなく電子署名(銀行窓口や携帯電話の機種変更でお目にかかるタブレット端末の画面にタッチペンで署名するもの)がなされます。
 しかし、それ以外は従来の公正証書遺言と同じ手順、同じ書式で作成されます。

 一見するとあまり進歩のなさそうなデジタル公正証書ですが、一番のメリットは、公証人の面前ではなく、ウェブ会議方式での作成が可能になったことだと言われています。
 従来の公正証書は公証人がプリントアウトした紙媒体に署名をする必要があったため、必然的に公証人の面前でしか作成ができませんでした。
 しかし、電子化されたことで手元の紙は必要ではなくなり、あとは通信環境さえあれば公証人が作成した文書データを送受信し、電子署名をすることで公正証書を完成させることができるようになりました。公証役場まで出向いたり公証人に出張してもらったりすることなく公正証書が作成できることで利便性も高くなると言えます。

 もっとも、電子化は必ずしも良いことばかりではなく、リスクも伴います。
 自筆証書遺言に関しては、実際に偽造や改ざんをされてしまうリスクだけでなく、相続人間での紛争に新たな「火種」を生じさせるおそれがあります。
 従来から「あんな(内容の)遺言は偽造されたもので無効だ」という主張がなされることも少なくなく、場合によっては筆跡鑑定が必要となることもあります。しかし、デジタル遺言では筆跡鑑定などしようがなく、また、手書きに比べて偽造のおそれも大きいと言えるため、せっかく遺言書を作成してもかえって相続人間の紛争が激化してしまう…ということもあるかもしれません。

  また、公正証書遺言についても、紙媒体であれば公証人の面前で作られることになり、公証人はその際に本人情報や本人の判断能力などを慎重に確認することができました。しかし、ウェブ会議方式となれば画面越しなので確認もしづらいでしょうし、AIなどを悪用したニセモノが現れるおそれも否定できません。そのため、ウェブ会議方式での公正証書作成には「公証人が相当と認めること」という条件が付されています。
 デジタル化の便利さと悪用のリスク…その兼ね合いはなかなかに難しいところですが、これは遺言書や公正証書でも同様と言えそうです。

▼執筆者紹介
明日の風法律事務所 久保田 聡 弁護士

武蔵野市成年後見制度地域連携ネットワーク連絡協議会委員、同市地域自立支援協議会委員、同市高齢者及び障害者虐待防止連絡会議委員、同市障害者差別解消支援地域協議会委員、NPO法人こだまネットもと副理事長など、地域の権利擁護のために奔走中。

https://asunokaze-law.com

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