
弁護士コラム「 後見と信託②(両者の比較)」
2024.6
前回から信託についてのお話をしており、今回は第2回となります。今回は、成年後見制度と民事(家族)信託制度を比較してみようと思います。
1 成年後見制度には、任意後見制度(判断能力に問題がないうちに、「来るべきとき」(判断能力の低下)が来たら成年後見人をお願いしたい旨、信頼できる人と契約をしておく制度)と、法定後見制度(判断能力が低下した後に裁判所が成年後見人を選任する制度)があります。
もっとも、任意後見制度は契約という点で民事(家族)信託と共通しており、似ている部分もあるため、より対照的な法定後見制度との比較をしてみるのが良いと思います。
2 まず、どちらも自分以外の人に財産を管理してもらうための制度であるという点では同じです。
しかし、同じ点はそれくらいしかないと言えます。違う点のほうが多くあります。
3 違いの1つ目は、被後見人・委託者の判断能力です。被後見人は判断能力が著しく低下した状態にあり(民法7条)、そこに付け込まれて不当な契約を結ばされたり財産を搾取されたりするおそれがあることから、成年後見人をつけてご本人の保護を図ります。言い換えれば、後見制度においては「財産が減らないこと」が重要であり、「増やすこと」は想定されていません。
これに対して、委託者には判断能力の低下が見られないことが前提(判断能力が低下していると有効な民事(家族)信託契約を結べないことになるため)なので、民事(家族)信託は「財産が減らないこと」を目的とするとは言い難いことになります。民事(家族)信託においてはむしろ財産を「運用すること」(「増やすこと」も含む)が意識されているように思います。
4 違いの2つ目は、「誰が財産を管理するか」という点です。成年後見制度の場合、成年後見人は裁判所が選任します。後見の申立てに際して「ぜひこの人を後見人に」と推薦することはでき、裁判所もその推薦を尊重してはくれます。しかし、最終的には裁判所の判断となるため、必ずしも推薦した人が後見人に選任されるとは限りません。
これに対し、民事(家族)信託の場合、受託者は自由に決められます。「この人に財産の管理をお願いしたい」という人を受託者として契約することになるため、まったく知らない人が受託者になってしまうことはありません。
5 違いの3つ目は、「どの財産を管理するか」という点です。成年後見制度の場合、成年後見人が管理するのは本人(被後見人)の全財産です。特定の不動産や口座のみを管理するというようなことはありません。
これに対し、民事(家族)信託の場合には管理してもらう財産を自由に決めることができます。
6 違いの4つ目は、報酬の有無です。成年後見制度の場合、報酬が発生します。弁護士などの専門職が後見人を務めている場合には後見人としての報酬が発生しますし、ご家族やご親族が後見人を務めていて後見報酬は要らないというような場合であっても、後見監督人(ご家族やご親族が後見人となる場合にはほぼ確実に裁判所が選任します)の報酬が発生します(監督人報酬は後見人報酬の半分程度と言われています)。
これに対し、民事(家族)信託の場合、受託者の報酬は発生しません。
7 違いの5つ目、これが一番重要な違いだと思いますが、成年後見人にはご本人の身上に配慮すべき義務があります。財産の管理だけでなく、ご本人に合った施設やサービスを探し、契約することも後見人の責務となります。
これに対して、受託者は身上面には関与しません。したくてもできないというほうが適切かもしれません。この違いはとても大きいと思います。
8 以上のように成年後見制度と民事(家族)信託を比較してみると、民事(家族)信託のほうが柔軟で使い勝手が良いという評価があるのも頷けます。
他方、民事(家族)信託においては(報酬との兼ね合いで)専門職が受託者となることは想定されておらず、専門職が関与しづらい状況であると言えます。受託者となるために資格や許認可が必要ないこととも相まって、受託者に対する監督機能が不十分という指摘にも頷かされます。
皆さまが選ぶとしたら、どちらの制度が良さそうでしょうか。
9 さて、前回少しだけ触れた「成年後見制度支援信託」についても補足しておきたいと思います。
名称からすると成年後見と民事(家族)信託の中間的な制度のようにも思えますが、実際にはそうではなく、成年後見制度の一部をなす制度です。
概要としては、ご本人(被後見人)の財産のうち、日常的な支払をするのに必要な分だけ後見人が管理し、それ以外の通常使用しない金銭は信託銀行等に預けておきます。後見人の管理するお金がなくなってしまえば信託銀行等に預けておいたお金を引き出すことができますが、その際には家庭裁判所が発行する指示書が必要となります。これによって、後見人による不正を防止する(後見人としても多額の金銭を管理する重圧から解放されることになります)ことができます。信託という名称ではありますが、「増やすこと」ではなく本人の「財産が減らないこと」を目的とした制度と言えます。

▼執筆者紹介
明日の風法律事務所 久保田 聡 弁護士
武蔵野市成年後見制度地域連携ネットワーク連絡協議会委員、同市地域自立支援協議会委員、同市高齢者及び障害者虐待防止連絡会議委員、同市障害者差別解消支援地域協議会委員、NPO法人こだまネットもと副理事長など、地域の権利擁護のために奔走中。
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