弁護士コラム「カスハラ研修ダイジェスト④~」

2024.12

 前回に引き続き、今年の2月に2回にわたって管理者の皆さまにお話させて頂いたカスタマーハラスメント(「カスハラ」)についての研修のダイジェストです。今回は第2回講演の後半部分となります。

1 カスハラを理由とした利用契約の解除(つづき)
 カスハラを理由として利用契約の解除が認められるためには、①契約書にカスハラが解除事由として明示されていること、②信頼関係を破壊したと認めるに足りる特段の事情(ある程度の期間反復・継続してなされたものであること、③ある程度の期間反復・継続してなされたものであることについての裏付け(証拠)があることが必要になると考えられます。
<ここまでは前回触れました。以下、つづきです>
 上記①について補足しますと、㋐「事業者もしくは従業者等の生命、身体、自由、財産、名誉、信用等を傷つけるような暴力や暴言、強要」といった例示だけでなく、「その他本契約を継続し難いほどの重大な背信行為を行った場合」など包括的な条項を加えておくと良いと思います。また、㋑各種ハラスメントがこれにあたることを重説で明示しておくと良いでしょう。
 さらに、㋒利用者本人だけでなく家族等による行為も含まれると明示(「利用者、利用者家族及びその関係者」といった表記)することも忘れてはいけません。

2 事業所(法人)と職員との関係
 事業所(法人)と職員との間には雇用契約が締結されており、事業所(法人)は職員に対して「安全配慮義務」を負うことになります(労働契約法5条)。そのため、長時間労働をさせたり職場の環境を整備しなかったりすれば、事業所(法人)に賠償責任が生じることになります。
 そして、この安全配慮義務は、カスハラについても及ぶと考えられています。すなわち、本来カスハラは「カスタマー」(利用者等)によるものであり、事業所(法人)の責任ではないはずです。しかし、事業所(法人)としてカスハラに対する適切な対応をせず、特定の職員に任せきりにしたような場合には事業所(法人)に責任が生じるおそれがあるものとされています。

3 法的責任の限界
 カスハラによって、職員には業務パフォーマンスの低下や心身の不調といった影響が生じることが考えられ、職員の休職や離職にまで及んでしまえば、事業所にとっても大きな損失となります。
 もっとも、法的責任というのは、①事後的な救済策にすぎず、②解決までに時間がかかる上、③賠償や刑罰でカスハラによるダメージを回復できるのかという問題が残り、むしろ④「逆恨み」によってかえってエスカレートするおそれもあります。
 そこで、そもそもカスハラが生じないよう未然に防ぐことはできないか、予防策を検討してみることが必要となりそうです。

4 グループワークとまとめ
 当日は以下のようなお題でグループワークに取り組んで頂きました。

「カスハラ」を未然に防止する、あるいは発生しにくくするためにすぐにでも実践できそうな取組みについて検討してみてください。その際、ご所属の事業所・法人でのエピソードや具体的な取組みがあれば是非ご紹介ください。

 今回もとても貴重なご意見をたくさん伺うことができました。
 この点についても「正解」があるわけではないのですが、今回の研修のまとめも兼ねて以下のように整理してみました。


ア 法人としての明確な方針を示すこと
 カスハラと捉える行為や、カスハラに対する法人としてのスタンス(特に、職員を守る姿勢)をさまざまな媒体(契約書・重要事項説明書の記載、ホームページに掲載、職員向け研修など)で明示することが有効ではないかと考えられます。
 これはカスハラを防止するだけでなく、職員や利用者・家族にとっての信頼感につながることも期待できます。
イ 小さなうちに「芽」を摘むこと
 カスハラに至る前の「芽」の段階で摘んでしまうことも有効だと思います。そのためには、相談窓口や報告体制を整備して「風通し」の良さを確保したり、法人や事業所全体で共有するといったことも必要になってくるかと思います。
ウ 過不足のないサービス
 また、「サービス以上のサービス」が常態化してしまわないよう、研修体制の充実を図ったり、利用者や家族との適度な距離感を意識することも必要だと思います。
エ 契約条項、重要事項説明書の見直し
 先ほど触れたように、カスハラが契約の解除事由となるように契約条項や重要事項説明書を整備することも必要になると思います。
オ こまめな記録
 お忙しいとは思いますが…、「カスハラ」に関する具体的な記録だけでなく、支援計画、支援・サービスに関する記録なども含めて、日常的に「記録」の意識を持つと良いと思います。いざというときの証拠にもなりますし、言った、言わないの
新たなトラブルを防ぐこともできます。
カ その他
 保険への加入などが考えられます。費用面でのサポートだけでなく、最近はコンシェルジュ機能を備えた保険もあるそうです。

 なお、弁護士は事後的な責任追及をサポートする立場であり、未然に防止するという術には乏しくなりがちですが、「初手を誤ってこじれてしまった」というケースもあるため、早めにご相談いただくに越したことはないと思います。
 以上、長々とお付き合い頂きありがとうございました。



▼執筆者紹介
明日の風法律事務所 久保田 聡 弁護士

武蔵野市成年後見制度地域連携ネットワーク連絡協議会委員、同市地域自立支援協議会委員、同市高齢者及び障害者虐待防止連絡会議委員、同市障害者差別解消支援地域協議会委員、NPO法人こだまネットもと副理事長など、地域の権利擁護のために奔走中。

https://asunokaze-law.com

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