
弁護士コラム「強制執行の実態」
2026.3
1 「裁判所から書類が届いてしまって…」というご相談をしばしばお受けします。その多くは、返済が滞ってしまった貸金業者からの返還請求だったりします。
返還請求に関する書類としては、訴状のほかに支払督促申立書というものもありますが、いずれの書類も裁判所名の明記された茶封筒に入れられ、「特別送達」という郵便で届くことになります。中には縁もゆかりもない土地の裁判所(支払督促は簡易裁判所から届きます)から届くこともありますが、「裁判所名の明記された茶封筒」、「特別送達で届く」、「受取りの際に押印ではなく署名を求められる」といった事情があればまず本物だと判断して良いでしょう。
2 業者からの貸金返還請求に対しては、借りたことは事実である以上「そんな事実はない」、「相手方の主張は真実とは異なっている」といった争い方をすることは難しく、「いつまでに支払う」という猶予を求めたり、「〇回払いで支払う」と分割での返済を求めたりすることになると思います。
しかし、昨今は業者の対応もなかなか厳しく、支払期限の猶予や分割での返済を認めてもらうことは容易ではありません。業者としても訴訟や支払督促といった法的手段に至っている以上、もはや粛々と判決を取得するのみということなのだと思われます。
かくして、「金〇〇円を支払え」という判決が言い渡されることになります。判決は、判決書が原告・被告の双方に送達されてから14日後に確定(控訴等によって争うことができなくなる)します。
3 もっとも、判決が言い渡されたり、判決が確定したりしても、実生活には何も変化は起こりません。判決の内容に沿って法的に支払いを強制されるには、訴訟とは別に強制執行(差押え)の手続が必要となります。
差押えというと、ある日突然玄関ドアを乱暴にノックされ、ドアを開けるとコワモテの男性たちが怒声をあげながらなだれ込んできて家電や家財道具を持って行ってしまう…そんな場面を想像する方もいらっしゃるかもしれません。これは「動産執行」というもので、映画やドラマの演出というわけではなくきちんと法律にも規定されている差押え方法です。
しかし、実際に動産執行がなされることはかなり稀です。動産執行自体は法律に規定されていますが、室内にある物を片っ端から差し押さえて良いというわけではなく、差押えの対象をあらかじめ特定しなければなりません。その上、日常的に使用している動産の価値はそれほど高くはなく、苦労して差し押さえても財産的価値には乏しく売却して貸金に充当するにはほど遠い…というのが実情のため、わざわざ動産執行が選択されることは稀なのです。
4 そのような事情もあり、実際の差押えの多くは債権の差押え、すなわち銀行等の預金か、もしくは勤務先の給与を対象とします。
誰かが自宅に押し掛けてくるようなことはありませんが、預金の差押えであればある日突然ATMが使えなくなっている、カードの不具合か何かだろうかと思って銀行の人に確認してみると「実は差押えが…」と声を潜めて教えられる、給与であれば振込額が少ないので経理に確認したところ「実は…」と声を潜めて教えられる…ということになります。
5 ただし、給与をすべて差し押さえられてしまっては生活が立ちいかなくなることも多いため、給与の差押えは全額ではなく4分の1が上限(養育費等の未払であれば2分の1が上限になります)とされています。また、年金や生活保護費はそもそも差し押さえることができないものとされています。
他方、預金の差押えには上限はなく口座残高すべてが対象になります。年金や生活保護費であっても、いったん口座に入ってしまえば一律に「預金」として扱われ、差押えの対象となってしまいます。年金や生活保護費の差押えが禁止されているというのは、年金事務所や福祉事務所に対して受給者を介さず直接業者に支払うように請求することができないということにすぎません。口座に入金された年金や保護費が差し押さえられてしまった場合、「それは年金(生活保護費)だから差押えはできない(返しなさい)」と言うことはできないので注意が必要です(もっとも、実態としては年金や生活保護費そのものを差し押さえられるのと変わらなくなってしまうため、そのような場合には裁判所としても預金全額の差押えは認めない扱いをしているようです)。
6 以上のとおり、今回はお金の支払いが滞ってしまった場合に預金や給与を差し押さえる場面をメインにお話ししましたが、強制執行としては不動産の競売や賃貸物件の明渡しなど、不動産が絡むケースもあります。実際のエピソードも含め、こちらのほうもまた機会があればお話しさせて頂こうと思います。

▼執筆者紹介
明日の風法律事務所 久保田 聡 弁護士
武蔵野市成年後見制度地域連携ネットワーク連絡協議会委員、同市地域自立支援協議会委員、同市高齢者及び障害者虐待防止連絡会議委員、同市障害者差別解消支援地域協議会委員、NPO法人こだまネットもと副理事長など、地域の権利擁護のために奔走中。
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