弁護士コラム「手続のデジタル化①(裁判所編)」

2026.5

 「コロナ禍」と言われた数年前、接触を避けるという当時の社会的なニーズも相まって急速にペーパーレス化が進みましたが、その際、「いまだに紙媒体が基本、いまだにFAXが大活躍」と変な注目を浴びてしまったのが「裁判所界隈」でした。
 しかし、その後遅ればせながらデジタル化の波が押し寄せることになり、この数年でさまざまな手続がデジタル化されていっています。 
 そこで、今回と次回は法的手続におけるデジタル化をご紹介してみようと思います。今回は裁判所編です(次回は公正証書や遺言書のデジタル化を予定)。
 なお、裁判所の手続には民事・家事手続と刑事手続がありますが、デジタル化が進んでいるのは民事・家事手続です。昨今ではスマホに逮捕状の画像が送られてくるそうですが、申し上げるまでもなくそれはただの詐欺でありデジタル化とは無関係ですのでご注意ください。

 民事・家事手続にも訴訟、調停、差押えなどさまざまな手続がありますが、今まではどの手続においても、書面を紙媒体で提出することよりもむしろ「裁判所への出頭」というミッションが立ちはだかっていました。
 民事・家事手続は相手方が遠方に居住している可能性があることを考慮し、相手方の住所地にある裁判所で手続を進めなければいけないとされていることが多く、ケースによっては期日のたびに遠方の裁判所まで旅に出るということもありました。
 もっとも、調停期日であれば当日2時間程度の枠が設けられているものの、訴訟等の期日では予め送付してある書面のやりとりの確認をして、争点を整理し、次回期日を指定する…というわずか数分で終了することも多くあります。
 そのため、それだけのために遠隔地にある裁判所に出向くのは不合理だということで、コロナ禍となる前までは「電話会議システム」というものが活用されていました。法廷で対面するのではなく電話で話すというだけのことではあったのですが、裁判所には専用の機器が導入されており、機器を通じて相手方の代理人も含めた三者間でやり取りをすることもできたので特に不自由を感じることもありませんでした。

 その後、コロナ禍でのリモートワークやウェブ会議の普及に合わせるように、民事・家事の手続においてもウェブ会議システムが導入されるようになっていきました。
 といっても、実際はデジタル化の波に乗ったのではなく、単に電話会議用の機器が老朽化し使い物にならないものの買換えの予算がつかず、仕方なくウェブ会議に移行せざるを得なかっただけという裏話を聞いたことがあります。
 また、この時点では書面の電子化は進んでおらず、ウェブ会議に先立って紙ベースの書面を郵送するかFAXで送信しておく(原本を郵送すべきかFAX送信で足りるかは書面の種類によって決められています)…というちぐはぐな状態となりました。その上、裁判所の通信環境も良くなかったようで、うまく接続できずに結局は電話会議に切り替えということも頻繁にありました。 

 さらに時代は流れ、3年ほど前からFAXの代わりに文書データをアップロードする形での書面提出方法(通称「mints(ミンツ)」)が段階的に導入されるようになりました。
 当初は一部の裁判所や特定の書面(FAX送信で足りるとされる書面)に限って試行的に導入されていたのですが、徐々に対象が拡大され、今月(2026年5月下旬)からはついにmintsの利用が義務化されるようになります。これによって、裁判所界隈においてもいよいよFAXの出番が少なくなっていくことになりそうです。

 余談になりますが、個人的には「期日の旅」はささやかな楽しみでもありました。仕事の効率だけで考えると確かに不合理なのですが、あえて午前中に期日を入れ、期日が終わった後にランチでご当地の名産品をいただいたり、電車の時間まで周辺を少し観光したりして小旅行のような気分を味わえるという面もありましたので、そういう点では少なからず寂しい気持ちでおります…。

▼執筆者紹介
明日の風法律事務所 久保田 聡 弁護士

武蔵野市成年後見制度地域連携ネットワーク連絡協議会委員、同市地域自立支援協議会委員、同市高齢者及び障害者虐待防止連絡会議委員、同市障害者差別解消支援地域協議会委員、NPO法人こだまネットもと副理事長など、地域の権利擁護のために奔走中。

https://asunokaze-law.com

人材育成センターの法律相談について
当センターでは、福祉事業所・団体支援や介護・福祉従事者支援の一環として「介護職の悩み相談」等を受け付けております。法的な助言が必要な場合には、地域の弁護士と連携し対応いたします。
ご相談を希望される方はセンターまでお問い合わせください。

目次