
弁護士コラム「新しい成年後見制度」
2026.7
本年6月17日、成年後見制度を大幅に見直した民法改正案が国会で可決されました。2000(平成12)年に成年後見制度がスタートして以来の大改正と言われています。既にニュースなどをご覧になった方もいらっしゃると思いますが、本コラムでは「代理権」という切り口で今回の改正を概観してみようと思います(ご本人の同意や取消といったあたりはまたの機会に)。
なお、新しい制度の下では「成年後見人」は存在しないことになりますが、「成年後見制度」という名称自体は残るそうです。
1 まず、今回の改正の大きなポイントとして挙げられているのが後見・保佐・補助の3類型を廃止し、原則として補助に一本化するという点です。
現行の3類型を念頭に置きつつ「原則みんな補助」と聞くと違和感を覚えるかもしれません。3類型のうち約7割が後見、約2割が保佐で、補助は1割程度と少数だからです。そこから一転して「原則みんな補助」と聞けば、驚きや違和感を覚えるのも無理はないように思います。
2 しかし、「代理権」という観点で見ると少しはすっきりするかもしれません。
現行の制度に関して、「後見・保佐・補助のいずれになるかは、ご本人の判断能力による」という説明はよくなされますが、3類型に分けることで何が違ってくるのかという説明はあまりなされないように思います。
では、何が違ってくるのかと申しますと、端的に言えば後見人等の代理権の範囲が違ってきます。ご本人の判断能力に応じ、後見人等が代わりに行うべきこと(代理権の範囲)も変わってくるということになります。
3類型の中では後見人の代理権が一番広く、包括的な代理権を有しています。これに対し、保佐人や補助人は裁判所の審判によって定められた範囲でのみ代理権を有することになりますが、ご本人の判断能力に応じ、一般的には補助人よりも保佐人の代理権のほうが広いとされています。
3 他方、後見人等が「なんとなく…」、「そろそろ…」という感じで選任されることはまずありません。ケースごとに相続手続や自宅不動産の処分、定期預金の解約、親族間の紛争などといったさまざまな「課題」が生じており、後見人等は差し当たってその「課題」を解決するために選任されることになります。
そうすると、「課題」と代理権の範囲とのミスマッチ、すなわち「課題」のわりに後見人等の代理権が広すぎるケースや、当初は適切な範囲の代理権だったものの「課題」が解決した後はそこまでの代理権が必要なくなったというようなケースが生じることになります。そして、後見人等の代理権が広ければ広いほどご本人の意向や自由が制限されるおそれも大きくなります。
このような「代理権過多」こそが現行の後見制度の大きな問題点だと指摘されてきました。
4 これに対し、新しい制度では、「原則みんな補助」として、ケースを問わずに包括的な代理権を与えるようなことはせず、個別の事情に応じて代理権の範囲を決めていくことになります。
また、「課題」が解決するなどしてそもそも代理権(補助人)が不要となれば、制度の利用自体をやめるということも可能になります。
現行の制度は基本的に終身制とされ、一度制度の利用を開始してしまうと基本的には生涯利用を継続せざるを得ないことになります。現行の制度下でも制度の利用をやめること自体は可能なのですが、後見・保佐の場合はご本人の判断能力が回復したことが必要、補助は元々少数ということで実際上はかなり稀と言えます。これはとても大きな変化と言えるでしょう。
新しい制度に対しては、より柔軟な対応が可能となる、ご本人の意思や自由が尊重されやすくなるといった評価がなされていますが、これは代理権の広さという観点から見るとより実感できるのではないかと思います。
5 もっとも、良いことばかりではないというのが世の常でして、新しい制度に対しても、裁判所の負担がますます増え、手続に時間がかかってしまうのではないかという懸念が既に示されています。言わば、現行の「既製品」とは異なり「オーダーメイド」で代理権を定めていくわけですから、その負担がどれほどのものとなるのかは始まってみないと誰も分かりません。
また、これは個人的な意見なのですが、裁判所の負担が現在よりもさらに大きくなることで、せっかく柔軟な制度ができても柔軟に運用する余裕がなくなり結局は画一的・硬直的な運用となってしまうというおそれもあるかもしれません。
例えば、後見人等が遺産分割協議に参加する場合、いくら個別の事情や経緯があったとしても、基本的には法定相続分でしか分割できないことになっています。これは代理権の範囲ではなく制度の運用の問題と言えます。制度自体もさることながら、どのように運用するかということがとても重要だと思います。
6 期待と不安の入り混じる新制度ですが、そのスタートは当初噂されていたよりも遅く、2028年からとなるようです。楽しみに待ちたいと思います。

▼執筆者紹介
明日の風法律事務所 久保田 聡 弁護士
武蔵野市成年後見制度地域連携ネットワーク連絡協議会委員、同市地域自立支援協議会委員、同市高齢者及び障害者虐待防止連絡会議委員、同市障害者差別解消支援地域協議会委員、NPO法人こだまネットもと副理事長など、地域の権利擁護のために奔走中。
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