弁護士コラム「大統領は止められない⁈」

2026.2

 某国大統領の暴走が止まらないようですね。最近の武力政治はもちろんのこと、昨年来の一方的な関税政策にも世界中が振り回されている様子です。
 ところで、その際に「関税を30%とする大統領令に署名した」などというニュースを目にしましたが、果たして本当に大統領の一存で関税を決められてしまうのでしょうか。

 アメリカの大統領は行政のトップであり、日本であれば内閣総理大臣がこれに当たります。もっとも、内閣総理大臣は国会での選挙によって決まります。また、国会には内閣に対して不信任決議を突きつけ総辞職に追い込む権限も与えられています。そのため、内閣は国会の意思に背くわけにもいかず、さらに国会の意思というのは結局のところ国民の意思ということになりますから、国民の意思に背くわけにもいかないということになります。日本ではこのような仕組み(議院内閣制)で内閣(行政)の暴走を抑止することになっています(実際に抑止できているかは評価の分かれるところかもしれません…)。
 これに対して、アメリカの大統領は国会ではなく国民の選挙で選ばれます。もっとも、アメリカでは国民一人ひとりが直接に大統領候補者に投票するのではなく、国民が大統領候補者に投票する「選挙人」を選び、その選挙人が大統領候補者に投票するという制度がとられています。「直接に国民の信任を得ている」ということを理由に、国会が大統領に不信任決議を突きつけたり大統領を解任したりすることはできないものとされています。

 なお、同じ大統領でもアメリカ大統領のような権限を持っていない国もあります。
 例えば、イタリアやドイツの大統領には政治的な権限はなく、政治的な権限は総理大臣に与えられているそうです。大統領は儀礼的な行為を行うものとされ(イギリス国王や日本の天皇に近いイメージでしょうか)、言われてみれば確かに「イタリア首相」や「ドイツ首相」に聞き覚えはあっても「イタリア大統領」、「ドイツ大統領」という響きには違和感すら覚えてしまいます。
 これに対して、韓国やロシアではアメリカ大統領に近い権限が与えられているようです。もっとも、韓国やロシアにも大統領を補佐する立場として首相が存在しており、大統領もしくは首相のいずれかしか存在しない国はむしろ稀なのだそうです。

 このように見てみると、アメリカ大統領の権限は諸外国の制度と比べてもとても強く、「やはり大統領は誰も止められないのか…」と感じてしまいます。
 しかし、大統領は君主ではなく、あくまでも行政のトップにすぎません。アメリカでも権力分立が確立しており、大統領令というのはあくまでも法律を執行するために、法律に反しない範囲でしか出せるものにすぎません。
 法律に則った行政を実現するために関係各所へ出す命令ということになりますから、法律に反することができないのは当然と言えます。

 行政(のトップ)に対してはもう一つ強力な抑止機関があります。それは、裁判所です。
 アメリカは特に裁判所の権限が強いとされています。アメリカはそもそもイギリス議会に不信感を覚えた人たちが海を渡り、新たなる大地に建てた国なので、議会に対する不信感というのが根底にあります。
 その分、非民主的機関である裁判所への信頼が強く(ドライブスルーで買ったコーヒーが熱かったせいでヤケドしたとしてお店に億単位の賠償を求めるのもアメリカならではといえるかもしれません)、立法(国会)や行政(大統領)に対しても強い権限を発揮します。ここには、法律に反する大統領令を無効とする権限も含まれます。

 アメリカでも関税は連邦議会で定めるのが原則とされているものの、緊急時などを想定して一定の例外が設けられています。
 一連の関税政策はこの例外規定を根拠にしているようで、それが法律の正しい解釈と言えるのかは専門家の間でも見解が分かれているようです。
 そうすると、最終的な判断は裁判所に委ねられることになるのだと思いますが、某大統領は司法機関の人事に介入することで裁判所の権限を骨抜きにしようと画策していると聞きます。その真偽はともかくとして、「同業者」としては裁判官の「矜持」に注目したいと思います。

▼執筆者紹介
明日の風法律事務所 久保田 聡 弁護士

武蔵野市成年後見制度地域連携ネットワーク連絡協議会委員、同市地域自立支援協議会委員、同市高齢者及び障害者虐待防止連絡会議委員、同市障害者差別解消支援地域協議会委員、NPO法人こだまネットもと副理事長など、地域の権利擁護のために奔走中。

https://asunokaze-law.com

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