
弁護士コラム「カスハラ対策義務化①」
2026.8
1 店頭や窓口などで「STOP!カスハラ」などと書かれたカスタマー・ハラスメント(カスハラ)防止の啓発ポスターを目にすることが多くなりました。
カスハラは一言で言うと「顧客からの迷惑行為」であり、近時あらゆる業種で問題となっています。もっとも、カスハラ自体は以前から横行していたものと思われ、以前は「お客様に逆らってはいけない」という風潮の下で我慢せざるを得なかったものが、最近になって「それではいけない」という意識に変わったということだと考えられます。
2 さて、突然ですがクイズです。カスハラが最も多いとされる業種は何でしょう?
厚労省の実態調査によると、正解は、飲食業…ではなく、旅客運送業(バス、タクシー等)…でもなく、医療・福祉業とのことです。また、職種別でも、福祉専門職、医療専門職はかなり上位に名を連ねているようです(なお、調査は民間企業を対象としているため、実態としては「役所・公務員」というのも上位になるのではないかと推測されます)。
3 カスハラをめぐる社会の動向も踏まえ、2024年2月に武蔵野市福祉公社において、市内各事業所の管理者向け研修という形でお話させていただきました。
また、その後、本コラムでも研修のダイジェストという形で、4回にわたって掲載をさせていただきました(コラム⑭~⑰)。
もっとも、当時はまだそれほどカスハラという概念が浸透しておらず、研修では「カスハラとは何か」といった部分にも重点を置きました。その反面、介護・監護の場面におけるカスハラは、カスハラを理由にサービスを停止させると場合によっては人命にかかわってしまうかもしれない、BPSDや障害特性かもしれないと考えると簡単にカスハラと言ってしまって良いのか、といった業界特有の難しさも相まって、とても深刻な状況にあるという問題意識を共有することもできました。
4 前回の研修(2024年2月)からは2年半ほど経過しており、その間にカスハラに対する世間の取り組みはかなり進んだように感じます。
これには、厚労省が実態調査の結果等を積極的に発信したり、東京都が2024年12月にカスハラ防止条例を制定(施行は2025年4月から)したりしたことも影響しているのでしょう。
しかし、何よりも世間の意識が高まったということが大きいのではないかと思います。カスハラに対する意識が高まったことで、例えばスーパーの店頭でカスハラを目撃した場合に他の従業員に知らせたり、場合によっては警察に通報したりといった「市民の目」も行き届くようになったと言えるかもしれません。
また、皆さまの職場でも、カスハラが契約の解除事由になるという条項を盛り込んだ契約書や重要事項説明書をお使いになったり、カスハラ事例を職場全体で共有したりといった対策をお取りになっているかもしれません。
5 さらに、本年(2026年)10月からは、労働施策総合推進法(正式名称は長いので省略)の改正によって、カスハラ(や求職者等に対するセクハラ)の防止措置を講じることが事業主の義務となります。
「事業主?カスハラの禁止や厳罰化ではなく対策の義務化なの?」という疑問をお感じかもしれません。たしかに、カスハラ自体はカスタマー(お客さん、利用者など)の行為であり、まずはカスハラ自体に対して毅然と向き合うことが本来あるべき形だと思います。
しかし、個々の職員や担当者が毅然と向き合うというのは実際にはなかなか難しく、事業所として適切な対処をしないとカスハラがエスカレートしてしまうおそれがあります。
また、雇用契約上の問題も生じます。事業主には従業員を守るという使命もあるため、職場全体でカスハラに取り組まず特定の職員に任せるような体制は、従業員を守るという使命(職員の安全に配慮すべき義務)に違反するおそれがあります。
次回は事業主の義務といったあたりを中心に、引き続きカスハラ対策義務化のお話をさせていただこうと思います。
ということで、また次回。

▼執筆者紹介
明日の風法律事務所 久保田 聡 弁護士
武蔵野市成年後見制度地域連携ネットワーク連絡協議会委員、同市地域自立支援協議会委員、同市高齢者及び障害者虐待防止連絡会議委員、同市障害者差別解消支援地域協議会委員、NPO法人こだまネット元副理事長など、地域の権利擁護のために奔走中。
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