弁護士コラム「カスハラ対策義務化②」

2026.9

 前回に引き続き、カスハラ対策義務化のお話です。
 前回は、カスハラに対する世の中の意識の高まりや、本年(2026年)10月1日から事業主にカスハラ対策の義務が課されることなどをお話しました。
 今回は、カスハラ対策としてどのような措置を講じなければならないのか、対策をとらない・不十分だとどのようなリスクがあるのか、①事業主、②カスハラ対策、③義務化の3つに分けてお話ししていこうと思います。

 まず、①事業主ですが、「雇い主」と読み替えてしまったほうが分かりやすいように思います。事業所の規模や業種は問わず、1人でも雇用していればすべて「事業主」となります。
 1人事業所・個人事業主は、ややこしいのですが、誰も雇っていないという点で、今回の法改正によってカスハラ対策の義務が課される「事業主」には含まれないと考えられます(ここでも「雇い主」と読み替えるほうが分かりやすいと思います)。
 法人であれば代表者ではなく法人自体が雇い主になります(実際には法人の役員が事業主となります)。
 こうして見ると今回の改正は「雇われる側」には関係がないようにも思えます。しかし、事業所としてどのような対策を取るかによっては「雇い主」ではない従業員、特に管理監督者等にもさまざまな役割や影響が生じるものと考えられ、残念ながら(?)無関係ではいられないようです…。
 では、事業所としてどのような対策が想定されるのかを次に見ていきたいと思います。

 ということで、次は②カスハラ対策です。
(1)
 「義務化されたと言われても、一体何をすれば良いのか…」、「東京都のカスハラ条例ができたときにマニュアルを作ったのだが  さらに何かしなければいけないのだろうか…」といった疑問や不安が尽きないものと思われます。
 そのような声を想定したのか、対策の具体的な指針については厚労省が「事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット」(以下、「厚労省パンフレット」と言います)というものを作成しています。
(2)
 厚労省パンフレットの中身を少し見てみますと、そこには事業主として対策を講じるべき具体例が4つの項目に分けて挙げられています。
 1つ目は、「事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発」です。「STOP!カスハラ」のポスターを貼ったり、ホームページにカスハラに対する方針について掲示したりといった対策がここに含まれます。
 2つ目は、「相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」です。従業員がいつでも相談できるような相談体制(対面だけでなく電話、メール等の複数の方法を用意することが望ましいとされています)を整備し、相談の内容や状況に応じた適切な対処ができるようにしなければなりません。相談の担当者は事業主に限られず、管理監督者等も想定されています。
 3つ目は、「ハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応」です。事実関係を迅速かつ正確に確認し、カスハラ被害に遭った従業員への適切な配慮や再発防止等の措置を講じなければならいとされています。
 4つ目は、「併せて講ずべき措置(プライバシー保護、不利益取扱いの禁止等)です。ここは直接のカスハラ対策というわけではなく、カスハラ対策を講じるにあたっては思わぬところに不利益が生じないように配慮しなければいけません、といった意味合いです。

 最後は③義務化のお話です。
 東京都条例は「対策に努めるべき」という努力目標を定めたに過ぎないものであるのに対し、今回の法改正は法的義務、すなわち従わないとペナルティが課せられるという違いがあります。さすがに刑事罰が科されることまではないのですが、厚生労働大臣による助言や指導・勧告、そして場合によっては公表ということになります。
 また、従業員との関係において、「安全配慮義務違反」を理由として事業主に損害賠償請求がなされるおそれもあります。この点は、今回の法改正の前からあり得ることではありましたが、カスハラ対策が法的義務とされたことで、賠償義務が認められる可能性もそれだけ高まったということができると思います。

 以上、カスハラ対策の義務化について簡単にお話しさせて頂きましたが、来る10/19にカスハラ対策義務化をテーマとした管理者向け研修の講師をさせて頂くことになっております(実は、前回、今回のコラムは研修のイントロでもありました)。
 当日は、より実践的なカスハラ対策について、ワークを通じた皆さまのご意見や取組も踏まえて深めていければと思います。お忙しいと存じますが、当日お会いできますのを楽しみにしております。

▼執筆者紹介
明日の風法律事務所 久保田 聡 弁護士

武蔵野市成年後見制度地域連携ネットワーク連絡協議会委員、同市地域自立支援協議会委員、同市高齢者及び障害者虐待防止連絡会議委員、同市障害者差別解消支援地域協議会委員、NPO法人こだまネット元副理事長など、地域の権利擁護のために奔走中。

https://asunokaze-law.com

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