弁護士コラム「 後見と信託③(信託の活用法)」

2024.7

 信託についてのお話も今回で最後となりました。今回は、民事(家族)信託の活用法を探りつつ、成年後見制度との比較についてももう少し掘り下げてみようと思います。

 民事(家族)信託の活用法として言われるのが「親なき後の財産管理」というものです。
 具体例を用いて考えてみましょう。①父A、母B、長女C、長男Dの4人家族、長男Dには障害があり十分な判断能力がないものとします。②父Aは「親なき後」の長男Dを心配して「全財産1,000万円を長男Dに相続させる」という遺言を作成し、かつ、③母Bや長女Cに遺留分を主張しないよう理解を得ていたとします。
 ※遺留分というのは法定相続分の2分の1に相当する額を取得できる権利のことで、この場合は母Bには250万円、長女Cには125万円を取得する権利が生じます。
 この場合、たしかに長男Dは1,000万円全額を取得することができます。
 しかし、遺産をすべて取得したとしても、長男Dが自分で財産を管理することは難しいわけですし、遺産が多ければ多いほどむしろ悪い人にその遺産を狙われてしまうかもしれません。月々の施設費や何かあったときの費用に役立てて欲しいという両親の願いは、たとえ遺言を作成したとしても実現できるとは限りません。

 そこで、民事(家族)信託が登場します。例えば、父Aを委託者、長女Cを受託者、A亡き後の長男Dを受益者として、月々の施設費を支払ったりDにお小遣いとして5,000 円を渡したりすることを約するような契約が考えられます。
 この場合、Cは、Aが他界した後はDのために遺産から月々の施設費を支払ったり、Dにお小遣いを渡したりすることになります。すなわち、Cという信頼できる家族にDの財産面でのサポートを託すことができます(前回申したとおり、信託契約のみで
は身上面には権限が及びません)

 もっとも、上記の例でポイントになるのは、長男Dのために長女C(長男D以外の人)と契約をするという点です。長男Dは、判断能力の点で契約の当事者となることが難しいからです。
 そのため、長男Dにとって信頼できるきょうだいや親戚などがいれば良いのですが、そのような人がいないということになると、誰にお願いすれば良いのかという問題が生じることになります。
 また、受託者が財産をきちんと管理できているか(施設費を滞りなく支払っているか、自分のために使い込んでいないか、など)のチェック体制が未だ十分でないという民事(家族)信託制度の問題点は、家族や親戚であるかどうかにかかわらず問題に
なるおそれがあると言えます。

 他方、上記のような設例では、父Aや母Bの生前から長男Dの成年後見人を選任してもらい、生活の関係、医療や福祉の関係、好みやこだわりなど、少しずつ引継ぎをしていくという形も十分にあり得ます。
 この場合は、財産をきちんと管理できているかどうか年に1回裁判所のチェックが入ることになりますし、また、後見人であれば身上面までサポートを期待できます。
 他方、成年後見人は裁判所が選任するため、見ず知らずの人が後見人に選任されるかもしれない、後見人と本人の相性が合わなかったらどうしよう…といった不安は拭えないことになります(後見人となるべき人を推薦することはできますが、裁判所が必ず推薦通りに選任してくれるとは限りません)。
 また、実際には、「どのタイミングで選任してもらうのが良いのか、あまりに早いとまだ自分たちが面倒を見られるのに後見報酬が発生してしまう(将来のために少しでも多く残しておきたい)」、かといって「何かあってからでは手遅れになってしまう…」といったお悩みを伺うことも多くあります。
 民事(家族)信託であれば、「Aの生前はAのために財産を管理し(一次受益者)、Aの他界後は遺された財産をDのために管理する(二次受益者)」という契約も可能となります。

 民事(家族)信託の活用法としては他にもいろいろ挙げられますが、代表的なもの
は以下のようなケースです。
 ア  認知機能や判断能力が低下してしまった場合、金融機関の口座を凍結されてしまうおそれがあり、成年後見人等を選任する手続の間(3か月前後)は預金を引き出せずに本人や場合によっては家族にも生活に支障の生じるおそれがあります。しかし、予め信託契約によって財産を託しておけば、それをすぐに生活費等に充ててもらうことができ、将来の生活の不安を解消することができます。
 イ 先ほどの「親なき後」の事例において、長男Dの亡き後(Dに子どもはおらず、母B、長女Cも他界しているとします)、遺された財産は国に帰属することになります。しかし、父Aは、長男D亡き後に遺された財産をDがお世話になる施設に寄付するといった内容の信託契約を結んでおくこともできます(「子なき後」の財産)。

 具体例を通してみると、民事(家族)信託のメリットはやはり「柔軟性」という点にあるように思います。実際に、成年後見制度には必ずしも柔軟とは言えない部分もあることや、意思決定支援の重要性が指摘される中で、成年後見制度に対する批判的な見方や、民事(家族)信託こそが良い制度なのだといった意見に触れることが少なくないように思います。
 しかし、民事(家族)信託にも監督体制が十分でないなどの課題があるように、どの制度にも長所、短所はあります。「何を使うか」よりも「どう使うか」がポイントであると言えるでしょう。

▼執筆者紹介
明日の風法律事務所 久保田 聡 弁護士

武蔵野市成年後見制度地域連携ネットワーク連絡協議会委員、同市地域自立支援協議会委員、同市高齢者及び障害者虐待防止連絡会議委員、同市障害者差別解消支援地域協議会委員、NPO法人こだまネットもと副理事長など、地域の権利擁護のために奔走中。

https://asunokaze-law.com

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