
弁護士コラム「架空請求に気をつけよう」
2025.3
1 「有料サイト利用料に関する訴訟最終告知」…どこかで見覚えがあるのではないかと思います。一昔前はハガキ、最近はショートメールなどで送られてくる「架空請求」の一文です。
架空請求は皆さまにもすっかりお馴染みだと思いますが、手を変え品を変え、最近になってまた被害が増えているそうです(最近はQRコードを悪用するものが「はやり」なのだとか…)。
2 以前も今も、漠然とした内容でありもしない請求をするという点では一貫しています。漠然としているため、「もしかするとあのことかな…」、「言われてみればあのとき…」などと急に不安になってしまいますが、本来の請求においては、誰が誰に対して請求するのか(債権者、債務者の特定)、何に対するいくらの請求なのか(債権の特定)を明示することが必須です。
ところが、架空請求の文面には請求している相手の住所も氏名も記載がなく、そもそも誰宛の文面か分かりません。その上、「利用料」「未精算分」「有料情報サイト」など、具体的に何に対する課金なのかも判然とせず、課金額がいくらなのかも分かりません。
それでいて「本日中」、「明日正午まで」など期限だけははっきりと書いてあったりします。
3 請求している相手の住所や氏名は記載されていないのに対し、請求元(誰が請求しているのか)にはいかにも実在しそうな団体名を記載したり、法的手続をちらつかせたりします。中には、「法務省民間訴訟告知センター」、「法務局国民訴訟通達センター」など官公庁を名乗るものもあり、公的機関からの通知であるかのような不安を煽ります。
しかし、これらの機関は実在しません。普段からなじみのある機関でないと実在するかどうか見分けがつきにくいと思いますが、「本物の訴訟」に関する書類は裁判所からしか届きません。官公庁が訴訟に関するお知らせをすることは絶対にあり得ません。
4 差押えなどの法律用語を散りばめて不安を煽る請求もあります。
しかし、本来の法的手続(訴訟)は、訴状を作成して証拠などとともに裁判所に提出し、書面審査を通過して初めて第1回の裁判期日が決まる、という手順で進みます。訴状等を提出してから最初の裁判期日まではおよそ1か月半前後かかります。訴訟の終結までにはそこからさらに半年前後、中には年単位になるものもあります。今日の明日で訴訟になったり裁判が確定したりすることはありません。
なお、請求のための法的手続には、訴訟の他、「支払督促」という簡易裁判所での手続もあります。裁判期日が開かれないまま書類の送付だけで手続が進んでいくので訴訟よりも迅速と言えますが、それでも1か月程度はかかり、「明日に確定」することはありません。
また、架空請求には「執行官立会いの下で給与の差押え」などの文言が散りばめられていることも多いですが、いきなり差押等の強制執行をすることはできず、まずは裁判に勝訴するなど権利関係を確定させることが必要になります。いきなり差押えに言及している文書はかなりの確率で架空請求のものと言えるでしょう(なお、そもそも給与の差押えに執行官が立ち会うことはありません)
5 もっとも、法的手続は専門的な知識が絡むため、その分だけ本物かどうかの判断も難しいと思います。「向こう」も不安を煽ることに関しては「プロ」であり、文面を読んでしまうと次第に不安な気持ちが募ってしまうかもしれません。
しかし、そもそも、業者が利用料などの請求をする場合にハガキやショートメールで請求することは絶対にあり得ません。封書が届くはずです。
封書の場合も「本物」の請求の場合は基本的に、①請求元の業者からの書留や内容証明郵便(請求元業者から依頼を受けた債権回収会社や弁護士名義の場合を含む)か、②裁判所からの特別送達郵便のいずれかになるものと考えられます。いずれもポスト投函ではなく手渡しでの配達となりますし、受取りの際に署名又は捺印が必要になります。
そのため、普通郵便で届いたもの(ポストに投函されているもの)は、それだけで架空請求の可能性が高いと言えます。
6 さらに、ごく稀なケースではあるものの、実際に法的手続を取ってまで架空の請求をしてくる場合もあるそうです。上記の「支払督促」の手続には証拠を添付する必要がないため、何らかの方法で入手した住所氏名等の個人情報があれば、架空の請求であっても手続を取ることができてしまうのです。
架空請求であっても手続が完了してしまうと訴訟で負けたのと同一の状況、即ち強制執行が可能な状態となってしまいます。身に覚えがないから、どうせ架空請求だからと放置してしまうととても厄介なことになりかねません(なお、「借りたのはたしかだが大昔のことなので時効になっているはずだ」という借入れの場合も同様です)。①「裁判所から」、 ②「特別送達で」封書が届いたら、迷わず弁護士にご相談になるのが良いと思います。

▼執筆者紹介
明日の風法律事務所 久保田 聡 弁護士
武蔵野市成年後見制度地域連携ネットワーク連絡協議会委員、同市地域自立支援協議会委員、同市高齢者及び障害者虐待防止連絡会議委員、同市障害者差別解消支援地域協議会委員、NPO法人こだまネットもと副理事長など、地域の権利擁護のために奔走中。
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