
弁護士コラム「 後見と信託①(信託って何?)」
2024.5
最近はインターネットをはじめ、公共交通機関の広告などでも「民事信託」や「家族信託」というワードを目にすることが多くなってきました。しかし、新しい制度、かつ、なかなか複雑な制度、かつ、似たような名称の別の制度もあるため、「信託って聞くには聞くけど…結局のところ何?」という方も多いのではないのかと思います。
そこで、今回から何回かにわたり信託について取り上げてみたいと思います。
1 「民事」や「家族」を抜きにした「信託」という単語であれば今までにもお聞きになったことがあると思います。すぐに思いつくのは「信託銀行」や「投資信託」などだと思います。いずれも、お金を預けておくだけ(預貯金)ではなく、預けたお金を運用してもらう点に特徴があると言えます。
「民事信託」や「家族信託」も「信託」の一つであり、自らの財産を信頼できる人に託し、管理してもらうという点では信託銀行などと同じです。
2 しかし、もちろん違いもあります。信託銀行や投資信託においては、お金を預かって運用する人(「受託者」と言います)は営利(報酬をもらうこと)を目的としています。そのため、商売としての信託という意味で「商事信託」と呼ばれ、行政による監督機能を確保するため、商事信託を行うためには許認可が必要になります。
他方、血縁関係や個人的な信頼関係に基づいて、あくまでお互いに個人としてお金の管理を任せたい、担いたいということもありえます。
そのため、そのような営利を目的としない信託には別の名称をつけて商事信託と区別する必要が生じます。これが「民事信託」です。
言い換えれば、「民事信託」というのは、営利を目的とせずにご本人から資産を預かって管理・運用する制度ということになります。
3 「商事信託」と「民事信託」の違いは他にもあります。「商事信託」において対象となる財産は基本的に金銭のみとなります。これに対して、「民事信託」においては、対象に特に限定はなく、金銭だけでなく自宅の土地建物なども対象に含めることができます。
4 ここで問題です。では、「家族信託」は「商事信託」と「民事信託」のどちらに含まれるでしょうか。あるいは、どちらにも含まれる(含まれない)でしょうか。 正解は、「厳密に言うと、どちらにも含まれる」です。とてもややこしいのですが、信託銀行の商品には「家族信託」を謳うものもあるようで、その商品は信託銀行が営利目的で行うものなので商事信託になります。
ただし、「家族信託」といえば基本的には家族・親族が営利目的ではなく資産の管理・運用をする場合を指すので、「民事信託」に含まれると捉えていた
だいて良いのではないかと思います。
そのため、ここから先は「民事(家族)信託」と表記することにします。
5 「民事(家族)信託」が注目を集めるようになっているのは、その自由度にあるようです。信託というのは託す人(「委託者」と言います)と託されて財産を管理・運用する人(受託者)との契約によって成り立ちます。
そのため、受託者となるための許認可や資格等が必要となるわけではなく、委託者は誰に財産を託すかを自由に決めることができます。また、必ずしも全財産を託さなければいけないわけではなく、委託者が自分で特定した財産のみを託するということもできます。
さらに、信託の制度を活用すれば、「親なき後」にご本人の施設費を定期的に支払ってもらうように託したり、特定の相続人のみに財産を受け継がせたりすることもできます(遺言によることもできますが、その場合は「遺留分」という権利が関わってくることになります)。
6 もちろん、良いことばかりではありません。受託者となるために許認可も資格も必要ではないということになると法的な規制は及びづらくなります。
また、受託者に対する監督機能も特段用意されておらず、受託者が使い込みなどの不正をしても表面化しづらいという問題も指摘されています。
そればかりでなく、新しい制度であるためまだ全貌がはっきりしておらず、思わぬ危険が潜んでいる可能性があるとも言われています。
7 なお、「成年後見制度支援信託」というものもあります。これは、「民事(家族)信託」とは異なり、むしろ成年後見制度の一類型といえます。
次回は、民事(家族)信託と成年後見制度との比較や、成年後見制度支援信託について、もう少し掘り下げてみたいと思います。
また、次々回には「信託制度の活用方法」や「遺言との比較」といったあたりにも触れてみようと思っています。

▼執筆者紹介
明日の風法律事務所 久保田 聡 弁護士
武蔵野市成年後見制度地域連携ネットワーク連絡協議会委員、同市地域自立支援協議会委員、同市高齢者及び障害者虐待防止連絡会議委員、同市障害者差別解消支援地域協議会委員、NPO法人こだまネットもと副理事長など、地域の権利擁護のために奔走中。
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