弁護士コラム「殺すつもりはなかった…⁈」

2025.5

 新年度を迎えて皆さま何かとお疲れだと思いますので、今回は「支援の現場で遭遇しそうな話題」からは少し離れ、気分転換に「頭の体操」をしていただこうと思います。ただし、頭の体操をするにはあまりにも物騒な素材です。苦手な方には申し訳ありませ
ん…。

 実際の事件にしても、映画・ドラマの一場面にしても、殺人(未遂)の容疑で逮捕された被疑者の多くは、「殺すつもりはなかった」という弁解をします。本当のことを述べている人もいれば、実際には最初から殺すつもりであったのに言い逃れをしている
人もいます。では、その言い逃れ(ウソ)を見破るポイントはどのあたりになるでしょうか。
 例えば、「Aさんは最初から殺すつもりでBさんを刃物で刺したが、Bさんは奇跡的に一命をとりとめた」という場合、「殺すつもりはなかった」というAさんの言い分がウソであることをどのように裏づけていけばよいでしょうか。
 昭和の刑事ドラマに出てくるような乱暴な取調べで殺意を認めさせるようなことはもちろんダメです、念のため。

 「頭の体操」よりも「間違い探し」と申し上げるほうが適切かもしれません。すなわち、『「最初から殺すつもりだった場合」と「殺すつもりはなかった場合」とで何が違ってくるでしょうか』という問題であれば、少しは捉えやすくなるかもしれません。
 まず、最初から殺すつもりだとすれば、どのような「刃物」を準備するでしょうか。出刃包丁、サバイバルナイフ…見るからに危険な(殺傷力の高い)刃物を準備することになると思います。手にしているのが果物ナイフや文房具のカッターである可能性は低いと思われます。
 そのため、「犯行に用いた刃物(の殺傷力)」という点がポイントになりそうです。

 もちろん、危険な刃物を手にしていたからといって、それだけで殺意が認められるとは限りません。「ただ怖がらせようとしただけ」、「揉み合っているうちに刺さってしまっただけ」などといった弁解もあり得ると思います。
 そこで、次のポイントを考えてみます。「最初から殺すつもりだった場合」と「殺すつもりはなかった(揉み合っているうちに刺さってしまったような場合)」とでは、刃物が刺さった場所や傷口にどのような違いが出るでしょうか。
 最初から殺すつもりだとすれば、胸やお腹などを狙うでしょうし、傷口も切り傷ではなく(深い)刺し傷になるものと考えられます。これに対して、揉み合っているうちに刺さってしまったのであれば、腕や脚を負傷する可能性が高いと考えられますし、傷口
も切り傷に近い(浅い)刺し傷になるのではないかと考えられます。
 そのため、「負傷した身体の部位や傷の程度」というのもポイントになりそうです。
 もちろん、この場合も一概には言えず、「はずみ」だったからこそ深く刺さってしまったということはあり得ると思います。
 しかし、「犯行に用いた刃物(の殺傷力)」と「負傷した身体の部位や傷の程度」の双方をもとに判断すれば、「最初から殺すつもりだった」場合と「殺すつもりはなかった」場合との違いはかなり鮮明になるものと考えられます。

 これに対して、「それよりも、AさんとBさんとの関係性、すなわち、AさんにBさんを殺そうと思う動機があったかどうかが重要だ」というご意見もあり得ると思います。映画やドラマでは主人公が加害者と被害者の関係性や動機を暴き出し、一気に解決
へと向かうストーリーも多いかもしれません。
 しかし、動機は内心にとどまるため外部から(第三者が)判断するのは難しく、また、平素いかに恨んでいたとしても、本当に殺そうとしてしまうかどうかはまた別の話です。そのため、動機はあくまでも補足的な判断要素にとどめるのが良いと考えられます。

 実は、上記のようになるべく客観的な要素をもとに判断するという手法は、実際の裁判で裁判官がとっている手法でもあります。もっとも、裁判官が実際に病院や司法解剖(被害者が亡くなった場合)に出向いて傷口を確認するようなことはなく、診察内容や司法解剖の結果を記載した書類などを(隅々まで)読み込むことになります。かなり地道な作業となるため、それをリアルに再現したところで視聴者を魅了するとは考え難く、それゆえに映画やドラマでは加害者と被害者の関係性や動機に重きが置かれることが多いのだと思います。
 映画やドラマを「凶器×傷の部位・程度」という新たな視点でご覧になってみるのも良いかもしれません。

▼執筆者紹介
明日の風法律事務所 久保田 聡 弁護士

武蔵野市成年後見制度地域連携ネットワーク連絡協議会委員、同市地域自立支援協議会委員、同市高齢者及び障害者虐待防止連絡会議委員、同市障害者差別解消支援地域協議会委員、NPO法人こだまネットもと副理事長など、地域の権利擁護のために奔走中。

https://asunokaze-law.com

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