弁護士コラム「相続のおはなし③」

2025.9

 相続シリーズの第3回となる今回は、2017年に創設された配偶者居住権に触れつつ、「相続で揉めてしまうケース」(あくまで一般論ではありますが)にも触れてみたいと思います。

 2017 年に民法の相続に関する規程が大幅に改正されました。当時は「100年ぶりの大改正」などと謳われていましたが、その「目玉」とされたのが配偶者居住権という権利の創設です。
 例えば、遺産分割によって「お父さん亡き後、自宅はお母さん、預金はお兄ちゃんと妹で半分ずつ分ける」こととした場合、一見するととても円満に見えます。しかし、実はこれだとお母さんが困ってしまう場合があります。
 この場合、お母さんは自宅(住まい)を確保することはできますが、その代わり、相続によって(まとまった)お金を手にすることはできません。「住まいはあっても生活はカツカツ…」ということもあり得ます。かといって、「当座の生活のために預金を多めにもらっておきたい、なので自宅はあきらめる…」というのでは、どこかに住まいを確保する必要が生じてしまいます。

 このような実情を踏まえて、配偶者居住権が創設されました。配偶者居住権には、長期居住権と短期居住権があります。
長期居住権は、被相続人(亡くなった配偶者)が所有していた不動産に居住していた場合には、終身・無償で引き続きその不動産に居住できるという権利です。ただし、自動的に発生するのではなく、遺産分割(遺族間での話合い・調停や、まとまらなければ裁判所の審判)を経ることが必要です。
 長期居住権の価値はさまざまな要素を考慮して評価されますが、所有権に比べれば価値は低くなるので、「不動産の所有権は取得できるが預貯金はゼロ」ではなく、「配偶者居住権と預貯金を少し」という取得方法も可能となることが多くなります。
 ただし、「居住する権利」である以上自ら売却することはできず、また、所有者の協力が得られたとしても居住権の負担がある物件として売り出すことになるのでその分買い手はつきにくく、自宅を売却したお金でホームに入
所するようなことが難しくなってしまうおそれもあります。
 これに対し、短期居住権は、相続の開始から6か月もしくは遺産分割が確定するまでの間、それまで住んでいた被相続人名義の不動産に引き続き無償で住み続けられるという権利です。遺産分割を経ることなく発生しますが、終身ではなく一時的な権利です。

 配偶者居住権に代表されるように、相続に関する法律も少しずつではあるかもしれませんが時代の流れや実情を反映させてきたといえます。
 しかし、それでも相続で揉めてしまうケースは依然として少なくありません。また、揉めてしまったケースの当事者が「うちは揉めると思っていました」とおっしゃることはまずなく、ほとんどの方が「まさかうちが揉めるとは…」とおっしゃいます。

 揉めてしまう原因はさまざまであり、一概にまとめることはできないと思いますが、それでもいくつかのパターンがあるように思います。1つ目は、「家父長制の名残」です。長男が家を継ぐという発想が残っていると、生前からどうしても「長男びいき」の状況が生れるようです。幼い頃は疑いを持つこともなかった下のきょうだいたちは、大人になるにつれ不満を溜め込んでいくようになります。その上、相続に際しても「家を守る」の一言で長男が取り仕切り、ほとんどの遺産を独占しようとする…きょうだいたちの積年の不満が爆発する瞬間です。しかし、長男は長男で「家を継がなければ」という心からの使命感に駆られており「何が悪いのだ」という感覚であるため、両者の溝はなかなか埋まりません。

 2つ目は、相続人ではない配偶者が相続に口出ししてしまうケースです。自ら積極的に口を出すというよりは、本来自分がしっかりしなければならない当人が「話合いとかニガテだから代わりにお願い…」と配偶者を頼ることで生じることが多いように思います。元々の家族でさえ往々にして揉めてしまうわけですから、いくら配偶者であっても口を出してしまうと揉めるのは必然といえます。

 3つ目は、一部の相続人が介護の負担を担ったことに対する配慮に欠けてしまったケースです。相続(親御さんの他界)は突然生じるわけではなく、だんだんと衰え、だんだんとサポートが必要になる時期を経ることが多いです。その際に子どもたちがそれぞれ役割を担えれば良いのでしょうが、さまざま事情があって誰か 1 人が同居したり、介護を担ったりすることもあります。
 それ自体はそれぞれのご事情といえますが、相続の段階になってそのことが影響して揉めてしまうケースがあります。「介護もせず知らん顔をしていたくせに相続ではきっちり主張してくる…」「介護にかこつけて欲しいままに財産を流用した」など、それぞれの事情に思いを致すこともなく感情がエスカレートしていってしまうことが往々にしてあります。

 もちろん、どのケースにおいても揉めたくて揉めているわけではなく、何が揉めるきっかけとなったのかもさまざまではありますが、何らかのご参考になれば幸いです。
 さて、当初は全3回の予定でしたが、もう1回分プラスして、相続放棄や税金の関係にも少し触れてみたいと思います。ということで、次回に続きます。

▼執筆者紹介
明日の風法律事務所 久保田 聡 弁護士

武蔵野市成年後見制度地域連携ネットワーク連絡協議会委員、同市地域自立支援協議会委員、同市高齢者及び障害者虐待防止連絡会議委員、同市障害者差別解消支援地域協議会委員、NPO法人こだまネットもと副理事長など、地域の権利擁護のために奔走中。

https://asunokaze-law.com

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