
弁護士コラム「相続のおはなし④」
2025.10
相続シリーズも最終回となりました。今回は、実はご相談頂くことも多い相続放棄に関してのお話と、あとはごく簡潔ながら税金関係のお話をしてみようと思います。
1 借金や、管理に困る山林や原野など「負の遺産」のほうが多いような場合、あるいは、財産はあるがもめ事に巻き込まれたくないので一切関わりたくないような場合、それでも相続せざるを得ないというのでは困ってしまいます。
そこで、自らの意思で相続人の立場から外れることができるようになっています。これが相続放棄の制度です。
2 相続放棄をした場合、最初から相続人ではなかったという扱いになるため、相続の関係には一切かかわらなくて済むようになります。
このように、相続放棄は相続人の地位・立場を放棄するものであり、財産を放棄するものではありません。そのため、財産ごとにこれは取得、これは放棄、というわけにはいきません。
3 相続放棄をするには、①相続の開始を知ったときから3か月以内に、②必要書類を被相続人が亡くなった際の住所地を管轄する家庭裁判所に提出する必要があります。
「相続の開始を知ったとき」は、必ずしも亡くなったときとイコールではありません。生前あまりお付き合いがなかったような方であれば亡くなったことを知るまでに時間がかかる可能性もありますし、先順位の相続人が放棄をしたために亡くなってからしばらくした後に自分が相続人になった(繰り上がった)ことを知るようなケースもあります。
4 相続放棄をすることができる「3か月」は熟慮期間と呼ばれています。しかし、実は熟慮しているヒマがないほど慌ただしいです。相続放棄の際に必要となる書類には住民票や戸籍の類が多く、被相続人の出生まで遡って取得しなければいけないこともあるので、郵送で取り寄せることはできるものの、かなり大変です。
5 熟慮期間を経過してしまうと、基本的に相続放棄は認められなくなってしまいます。インターネットなどでは熟慮期間が経過しても大丈夫と謳う広告が散見されますが、鵜吞みにするのは危険です。
期限までに書類がすべて準備できないようであれば、やむを得ず、ひとまずお手元にある書類だけでも出してしまうしかないと思います。
6 もっとも、相続放棄は裁判所に「放棄をします」と申し述べる行為であり、裁判所が審理をしたり、放棄を認める・認めないという結論を出したりするものではありません。
必要な手続が完了すると「相続放棄申述受理通知書」というA4サイズの書面が送られてきます。この通知書が放棄の事実を証明する書類となります。
7 さて、話は変わって今度は相続税のお話です。相続税には「とても高い」、「根こそぎ持っていかれる」といったイメージをお持ちかもしれませんが、「3,000 万円+600 万円×法定相続人の人数」という算定式で計算した額までは非課税となります。
例えば相続人が3人であれば、遺産総額が 4,800 万円以下であれば相続税は課されないことになります。
なお、以前はこの算定式を悪用し、法定相続人をどんどん増やせばその分だけ非課税の額が 600 万円ずつ増えると考えて次から次へと養子縁組をするケースがあったそうですが、現在では相続税の算定にあたってカウントできる養子の数には制限が課されています。
8 これに対し、贈与税は年間110万円を超えると課税されます。4,800万円を一度に贈与すれば、贈与税の額は2,640万円(税率 55%)となります。相続税は高いので生前に贈与しておきたい、という方がいらっしゃいますが、贈与税のほうが圧倒的に高いです。
9 もっとも、生前に財産を贈与しておく場合には、税制上の優遇措置が設けられています。
代表的なのは配偶者間での生前贈与です。これは、①結婚20年以上のご夫婦間において、②居住用不動産そのものまたは居住用不動産取得資金の贈与が行われる場合には、2,000万円まで非課税となるという制度です。また、子や孫に財産を残す場合には相続時精算課税制度というものがあります。これは、贈与を受ける額が 2,500 万円までであれば贈与税を納める必要はなく、贈与者が亡くなった際に改めて算定した額(算定はかなり複雑です)を相続税として納めるという制度です。
他にもさまざまな優遇措置が設けられているようですが、あまり周知が進んでいなかったり、すぐに制度が変わったり、とても複雑だったりするので、詳しくは税理士にご相談になるのが確実だと思います。

▼執筆者紹介
明日の風法律事務所 久保田 聡 弁護士
武蔵野市成年後見制度地域連携ネットワーク連絡協議会委員、同市地域自立支援協議会委員、同市高齢者及び障害者虐待防止連絡会議委員、同市障害者差別解消支援地域協議会委員、NPO法人こだまネットもと副理事長など、地域の権利擁護のために奔走中。
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