
弁護士コラム「個人情報とプライバシー」
2025.4
1 「これって個人情報に反しますか?!」…ケース会議や個別案件に関するご相談をお受けしている際にこのようなご質問を受けることが多くなりました。例えば、「検査でご本人の病気が見つかったが、ご本人はとても落ち込んでおり家族には絶対に知られたくないと仰っている、しかし今後の支援を考えると家族とも共有しておきたいのだが…」といった局面が想定されます。皆さまはどのようにお考えになるでしょうか。
2 日常的な場面で「個人情報」という単語が使われる場合、その多くは「プライバシー」という意味合いで使われているように思います(個人情報保護法は「個人情報」=個人を識別し得る情報と規定しているため、日常的な使われ方とは少し意味合いが異なり
ます)。
「プライバシー」について法律上明確な定義はないのですが、判例上は①私生活上の事柄であり、②一般的な感覚からすると公開を欲しないであろうと認められ、③一般の人々にいまだ知られていないこと、という3つの要件を満たすものであれば、プライバシーとして法的な保護を受ける(「プライバシー権」と呼ばれます)とされています。
冒頭の事例のような病気や病歴に関する事柄はこの3要件を満たす典型的な場合と言えますし、他にも身体的な特徴や出自、結婚・離婚歴、犯罪歴などが該当するとされています。
3 また、時代の変化に伴って、「プライバシー権」の概念も変化してきました。官公庁や企業が個人情報を大量に収集・保管するようになり、また、インターネットを通じて誰もが情報を発信できるようになったため世の中に情報があふれることになりました。
このような時代の変化に伴い、当初は「公開されない」ことに主眼が置かれていたプライバシー権の概念も、現在では「自己に関する情報をコントロールする権利」と捉えられるようになっています。
例えば、住所は、「この範囲であれば知られても全然構わないが、知らない人には知られたくない、インターネットに書き込まれるなどもってのほか」ということになると思います。どこまでの範囲で公開を認めるか否か、まさに「コントロール」をしていることになります。
さらに、「コントロール」という概念には、官公庁などが保有している自己に関する情報の開示を求めたり、情報の内容が誤っている場合にその誤りを訂正する、あるいはインターネットに書き込まれてしまった情報を削除するようプロバイダーに請求したりする場面も想定されています。
4 こうしてみると、冒頭の事例におけるご本人の病気は、優れて私的な事柄である上に、ご本人が家族にさえも知られたくないとの意思を鮮明にしているため、いくら今後の支援のためだとしても家族に知らせることはできないと考えられます。
もしかすると、後日ご家族から「なぜそんな重大なことを知らせてくれなかったのだ」と責められてしまうかもしれません。しかし、それでもご本人の承諾がない以上は知らせるわけにはいかないと考えられます。
ご本人の意思に反して知らせてしまえばプライバシー権の侵害となり、また、職務上の守秘義務違反ということになってしまいます。
プライバシー侵害に対する刑罰の規定はありませんが、民事上の損害賠償責任を問われるおそれは生じます。さらに、守秘義務違反となれば、刑事上の責任も問われるおそれが生じてしまいます(なお、個人情報保護法上も本人の同意なく第三者に「要配慮個
人情報」を提供するものとして刑事罰を科されるおそれがあります)。
5 「これでは何だかよそよそしい接し方しかできなくなってしまう…」とお感じになってしまうかもしれませんが、臆することはありません。
守秘義務が課されているということは、裏を返せば職務上、秘密やプライバシーを取り扱うことが当然に想定されていると言うことができます。およそ秘密やプライバシーに接してはいけないということではなく、信頼関係の構築や充実した支援や看護のためにはむしろ秘密やプライバシーに切り込むことも想定されている、(だからこそその取り扱いには気をつけてください)と考えることも十分に可能であると思います。
6 ところで、冒頭の事例であっても、ご本人の承諾があればご家族に知らせることができるのはもちろんです。
問題となるのは、ご本人が重篤な状況であるなど、およそ同意を期待し難い場合です。このような場合、しばしば「推定的同意」という概念が登場します。「おそらく同意してくれるだろう」、「同意があったということで…」といった取扱いであり、明確な同意を待っていてはご本人の命に関わるというような場合などどうしても必要となる場面はたしかにあると思います。しかし、同意の要件が骨抜きになってしまうので、安易に頼るのは危険です。個別のケースごとに、ご家族に伝えるメリットとご本人のプライバシーとを慎重に比較して対処することになると思います。
7 いずれにしても、本来の目的な情報の管理ではなく充実した支援ということだと思いますので、情報の管理だけを切り取って過度に臆することはないと言えるでしょう。

▼執筆者紹介
明日の風法律事務所 久保田 聡 弁護士
武蔵野市成年後見制度地域連携ネットワーク連絡協議会委員、同市地域自立支援協議会委員、同市高齢者及び障害者虐待防止連絡会議委員、同市障害者差別解消支援地域協議会委員、NPO法人こだまネットもと副理事長など、地域の権利擁護のために奔走中。
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